2017-08

『 ゴジラ  ~ モンスターズ・レジェンド ~ 』

『 ゴジラ  ~ モンスターズ・レジェンド ~ 』


   【以下の文章は、2003年2月25日頃に書いたものに、一部加筆したものです】

 以前から、ゴジラ50周年作品は、「現代を舞台とした“最初のゴジラ”を描いた作品」にして欲しいと思っていました。例えば、『ゴジラ(1954)』を現代の話に置き換えたような作品。
 しかし、オキシジェン・デストロイヤー風の超兵器でゴジラを葬るという話の持っていき方が、現代では少し無理があるという気もしています。

 それでも、現代を舞台として、“最初のゴジラ”を描くとしたら、『ゴジラ(1954)』の要素の幾つかを引き継いでいなければならないと思います。人によって、『ゴジラ(1954)』の何を重要な要素として選ぶかは異なるでしょう。例えば…

(1)「恐ろしいものが海から上陸する」というイメージで、海洋国日本の民族心理を揺さぶる。
(2)原水爆の愚かさ、被爆の恐ろしさを描き、科学技術がもたらす暗黒面に対して警鐘を鳴らす。
(3)怪獣と神話(伝説)を融合させ、日本人の意識の根底にある「八百万の神々感覚」を刺激する。

 この三つを選んで、自分なりの初代『ゴジラ』のリメイク、『 ゴジラ  ~ モンスターズ・レジェンド ~ 』を書いてみました。興味のある方はご一読ください。



 日本国内、海からそう離れていない土地。そこにある小規模な遺跡の発掘現場。数人の発掘メンバーが、黙々と発掘作業を続けている。その中の一人の青年が、土の中から何かを掘り出した。
「何だよ、コレ…」
 青年が掘り出したのものが、土偶の一種であることは間違いなかった。青年が戸惑ったのは、その土偶の形状である。その土偶は「2足歩行型の恐竜が、まるで人間のように上体を直立させた」姿をしていた。尻尾は長く、背中には、大小の背びれの列が並んでいる。

 青年は、他のメンバーを呼び寄せる。一通り意見を交換し合った後、一行は土偶を持って仮設分析所兼仮設休憩所になっているプレハブ小屋へ。
「教授、凄いニュースかも知れませんよ、これ…」
「こっちも凄いニュースだぞ」
 プレハブ小屋の中でコーヒーを飲んでいた初老の男性は、発掘メンバーに背を向けたまま、手振りでTVを見るように促した。TVは、「日本の漁船が、巨大な恐竜のような怪物の死体を引き揚げた」という衝撃的なニュース映像を映し出していた。

「この巨大な怪物は、大きさ約30m、見ての通り首から先が千切れてなくなっていますが、太い胴体、長い尾、大きな4つのヒレを持ち、どう見ても絶滅したとされている恐竜としか思えません。この怪物の死体は、首から先がなくなっている以外にも所々に損傷が見られますが、全体としては特に腐敗などは起っておらず、非常に保存状態が良いということです。この世紀の発見は…」

 自分達の発見した奇妙な土偶のことを忘れ、TV画面を食い入るように見つめる発掘メンバーたち。
「マジかよ、マジで恐竜が生きていたってことか?」
「…プレシオサウルスも、モササウルスも、厳密に言うと恐竜ではないんだけどね」
 土偶を掘り出した青年が、脱力した感じで突っ込みを入れた。
 青年の手に握られた“ゴジラ土偶”のアップ。

 場面変わって、“恐竜死体”発見のニュースを報道するヘリコプターの内部。髪を風になびかせながら、女性レポーターが喋っている。
「今、私達は恐竜の死骸らしきものを引き揚げた漁船の上空を飛んでいます。甲板の上には、その死骸が置かれているようですが、大部分がビニールシートのようなもので覆われ、今こちらから様子をうかがうことは…」
 ここで、旋回中のヘリコプターから、甲板上のビニールシートから怪物の尻尾がはみ出しているのが見え始める。
「あっ、見えました、今、尻尾の部分が見えました! 確かに恐竜の尻尾のように見えます…」
 漁船の上空を旋回し続けるヘリコプター。
 タイトル画面に切り替わる。

      『 ゴ ジ ラ   ~ モンスターズ・レジェンド ~ 』

 …とまあ、こんな感じで、オカルトファンにはお馴染みの“恐竜土偶”と“ニューネッシー”ネタを同時に出す形で映画はスタートします。
 ここで、物語の主要キャラクターの簡単な説明をしておきます。キャスティングを想定しているキャラには、( )内にその名前を入れておきました。

桜庭(織田裕二 or オダギリ ジョー) … “ゴジラ土偶”を発見した青年。3度の飯より発掘が好き?
教授 … 日本の遺跡発掘チームの隊長。桜庭のよき理解者。
神取(中澤裕子) … TV局の女性チーフ。海外経験が豊富で、複数の言語を操る才女。
キサ(BoA) … 南国・ベルジラ共和国の少女。日本人移民との混血。日本への留学経験有り。姉のナギとは反対に、自由奔放に育てられた。
ナギ(栗山千明) … キサの姉。日本人移民との混血。長女であるため、巫女の宿命を受け入れている。

 翌日の新聞には、“恐竜の死骸”、“首なし恐竜”といった大見出しが踊っていた。そんな新聞を自宅で読みながら「だから、プレシオサウルスも、モササウルスも、恐竜じゃないんだけどね」と1人呟く桜庭。
 そこへ、姉が帰ってくる。桜庭の姉は言語文化学者であり、ベルジラ共和国の学術調査団に加わっていたのだ。
「おかえり、姉さん。どうだった、ベルジラ共和国は」
「それがねぇ、最初からウラル・アルタイル語族だった国が、日本からの移民を大量に受け入れた結果…」
「そうじゃなくて、頼んでおいた、いつものやつ。何かいいものあった?」
「はいはい、アンタが喜びそうなやつが土産物として売られていたから、買ってきてあげたわよ」

 姉が差し出した《ベルジラ土産》を見て、驚く桜庭。それは、桜庭が発掘した「2足歩行型の恐竜が、まるで人間のように上体を直立させた」姿をした土偶に酷似した焼き物人形(土偶状の人形)だったのだ。桜庭の発掘した土偶の話を聞いて、姉も驚く。
「…じゃあ、恐竜じゃないってこと?」
「うん、仮にティラノサウルスのような恐竜と人間が共存していた時代があったとしても、その時代の人間はこんな人形や土偶は作らないよ。さっきも言ったとおり、二足歩行する恐竜は、体をこんな風に垂直に立たり、尻尾を地面に引きずったりしないんだ。体は地面に対して水平、尻尾も水平。だから地面には触れない」
「じゃあ、一体何なのかしら」
「ベルジラでは、どうなの、この人形?」
「土産物屋では…確か、“荒ぶる神、ゴジラ”とか言ってたわ」
「荒ぶる神、ゴジラ…」
 そこへ、電話が。教授が、桜庭を研究室へと呼ぶ電話だった。

 研究室には、神取と名乗る某TV局の女性チーフが来ていた。一面に“恐竜の死骸”、“首なし恐竜”といった大見出しが踊る新聞の地方版をめくると、隅の方に“恐竜土偶発見?”という小さな見出しが。桜庭の発掘した土偶の件も、ごく小さなニュースとして新聞で報じられていたのだ。
「だから、恐竜じゃないんですけど」
 思わずぼやく桜庭であったが、姉の「ベルジラ土産のゴジラ土偶のようなもの」の話をすると、神取は大いに興味を示す。

「発掘現場で工事が一時的に再開されているから、その間発掘作業は中断しますが…」
「…キミ、パスポート持ってる?」
 その場でトントン拍子に話が進み、桜庭は神取のTV局チームと一緒にベルジラ共和国に行くことになる。
「でも、いいんですか? 日本では例の“首なし恐竜”のニュースで持ちきりなのに」
「ヨーイドンで同じ切り口で追っかけたら、私たちローカル局は勝てないわ。いかに差別化した報道をするかが、勝負なの」
 家に戻った桜庭は姉に、今度は自分がベルジラ行きとなった件を報告する。姉はベルジラの政情が不安定でテロリストの温床になっているらしいことを話し、強く警告するのだった。
 
 ベルジラ共和国にやって来た、桜庭と神取のTV局チーム。
 南国・ベルジラに冬はない。太陽の日差しはギラギラしているが、カラッとした熱風は素肌に心地よい。街を歩くと、インフレは進行しているようだが、桜庭の姉が警告したような危険な空気は感じられない。
 桜庭と神取のTV局チームは、「ベルジラ土産のゴジラ土偶」の出所を遡って、ベルジラ国内の、ある島に辿り付く。その島には「荒ぶる神・ゴジラ」の伝説が、今でも一種の土着宗教と化して存在していた。

 大使館から紹介された通訳の少女・キサは、実はその島の出身者であり、しかも「島の巫女」の血筋に生まれているのだと言う。
「道理でスイスイと案内してくれる訳だ…」
 桜庭の言葉には、それまで出身について語らなかったキサを責めるような響きがあった。
「ハイ、私も少し困りました。もし、私が島の出身者だと話したら、ベルジラ観光局の策略だと思われるかな、と思って」
 キサの屈託のない、それでいて知性を秘めた笑顔に桜庭は戸惑う。
「いや、ま、その…疑ったりしているわけじゃないんだけど」
「いいです。私もこんな形で里帰りすることになって、ビックリしてるけど、嬉しいです」
 日も暮れ、桜庭たち一行は村に宿泊することにするが、一部の若い村人の排他的な対応と必要以上の警戒心に、神取はマスコミ人として何かを嗅ぎ取るのだった。

 一方、日本では“首なし恐竜”騒ぎが続いていた。今度は、同じ巨大生物の死体が、日本の海岸に打ち上げられたのだ。漁船が引き揚げた死骸同様、首の付け根の辺りから上の部分が、千切れてなくなっている。
 また、「日本版ゴジラ土偶」が発掘された例の発掘現場周辺では、工事再開早々に新たな住居跡が発見され、教授たち発掘チームが召集されていた。

 桜庭たち一行は、次第にこの島の《ゴジラ伝説》の概要が掴めてきた。
 ゴジラは便宜上「荒ぶる神」と呼ばれているが、実は、ゴジラとは別に「本当の神」が存在する。“双頭の龍神”である。“双頭の龍神”は島の民にとっては「決して見てはならない」存在で、その姿形は誰も知らない(知ってはならない)。そういった“双頭の龍神”と島の民を間接的に結ぶ存在が、「偶像化された神=ゴジラ」なのだ。

 島の住民は、基本的には漁師であり、本来“双頭の龍神”の食料であるはずの魚を捕って食べている自分たちは、“双頭の龍神”に祟られているという思想が根底にある。“双頭の龍神”を神として祀らなければ、自分たちは祟りによって殺されてしまうので、「偶像化された神=ゴジラ」を通じて歌や踊りを捧げるという「仕組み」である。ゴジラが「荒ぶる神」とされているのと同時に、その土偶が一種の魔よけとして日常的に用いられているのは、このためだ。

 それでも“双頭の龍神”の怒りに触れてしまった場合、若い娘を生け贄として差し出す(生きたまま、いかだに乗せて海へ流す)という掟がある。その生贄になる者は代々伝わる巫女の血筋の家系の長女と決まっていた(キサはその直系の家系であるが、次女)。
 桜庭は、キサに《ゴジラ伝説》を信じているのかと尋ねる。
「まさか。島の人も、若い人は魔よけのゴジラ土偶さえ持っていません。宗教みたいに考えているのは年寄りだけで、島の大部分の人は、単なる伝統だと思っています」
「君は代々続く巫女直系の血筋なんだろ? 儀式ではなく、本当に巫女が生贄として流されたことが昔はあったのか?」
「“双頭の龍神”は、約1000年に一度現れると、伝説では語られています。でも本当に1000年前に“双頭の龍神”が現れて生贄が出されたかどうかなんて、今となっては誰にも分りません。ただ…」
 キサの表情が曇った。
「ただ、何なの?」
「1000年に一度の周期で、この海域の漁獲量が変化しているのは本当みたいです。ひいおじいさんの代から、ずっと漁獲量は減り続けていて、島は苦しんでいます。この島は、ベルジラの中でも最も貧しいところなんです」
「1000年に一度、不漁の周期…大変そうだな…」

 《ゴジラ伝説》の概要が掴めてきた、そんな頃。神取たちのTV局チームは、島にある怪しげな設備を発見。桜庭やキサにも内緒でこっそりと調査を始めていた。
 翌朝、島の海岸。何と、巨大な生物の死骸が打ち上げられている。それは日本で騒がれている“首なし恐竜”と全く同じと言っていいものだった。騒然となる島の民、それを統制するため動き出す巫女の家系の者たち。
 
 ベルジラの桜庭から“首なし恐竜”の件で電話を受けても、日本にいる教授の反応は意外なほど冷静だった。日本や周辺の海域でも、第3第4の“首なし恐竜”(死骸)が次々に発見され、単なる「死骸の発見」としては既に一つのヤマを過ぎていたのだ。
 逆に、教授から衝撃の事実が桜庭に伝えられる。
「新しい住居跡から、“首なし恐竜”の土偶が発掘された。これがな、作った後に首が折れたんじゃなくて、最初から首が千切れた状態で作られているんだ。桜庭君、君はどう考えるかね、これを」
 こうなると桜庭は、もういてもたってもいられない。神取を除くTV局チームを残して、桜庭と神取は、いったん日本へ戻ることにした。

 日本の発掘現場に戻った桜庭は、二つ目の「ゴジラ土偶」を掘り出す。この二つ目の「ゴジラ土偶」は、何とその右手に人間を握り、その口に人間を咥えていた。現場に立ち尽くす発掘メンバーの体を強風が煽り、すぐに大粒の雨が降り始める。その夜は、激しい嵐となった。
 翌朝、発掘現場付近一帯は停電していた。深夜、発掘現場からそう遠くない場所で、送電用鉄塔が数基連続して倒れるという事故があったらしい。携帯電話でそれを知った桜庭は、朝早く付近住民と一緒に野次馬気分で現場へ向かったが、途中に厳重な封鎖体勢がしかれていて、現場を見るどころか近付くことすら出来ない。

 ただならぬ雰囲気を感じた桜庭は、神取と連絡を取り、現場を撮影したビデオ映像を入手することに成功する。発掘メンバーと合流し、ビデオ映像の検証が始まった。
「これ、車両や人員の大半は防衛隊ですよ。何で防衛隊が…」
「鉄塔の倒れ方が、不自然と言うか、変ですよね。この鉄塔は北側に倒れているのに、この鉄塔は全く反対方向に倒れている」
「地面の様子も変ですよ。ここなんか、明らかに広い範囲で埋め戻してありますよ。一体、何を埋めたんだろう?」
「もしかしたら、例の“首なし恐竜”の生きているやつが上陸して、そいつが送電用鉄塔を登ろうとして感電死したんじゃないかな? 防衛隊は、夜中の間にその死体を埋めたんじゃないかしら?」
「恐竜が鉄塔に登って感電死したとしても、死体をわざわざ埋めますか? あんな大穴を幾つも掘るって大変なんですよ。防衛隊の大型車両を呼んで運んだ方が絶対早い」

 ここで突然、桜庭が立ち上がった。桜庭はメンバーを強引に引き連れ、発掘現場に急行する。
「ここと、ここと、ここと、ここ。俺の考えが正しければ、これらの場所から、住居跡が見つかるはずです。みんなで掘りましょう!」
 桜庭の勢いに圧倒され、半信半疑で発掘作業を始めるメンバーたち。すると、桜庭の示した場所から、まさしく住居跡が見つかった。
「どうして住居跡のある場所を、こんなに正確に予想できたんだ?」
「これは住居跡なんかじゃない。後から人の手が加えられているとは思うけど、基本的には足跡だよ、ア、シ、ア、ト」
「あ、足跡? 足跡って、何のだよ。まさか“首なし恐竜”のことを言ってるのか?アレが歩いたって、こんな足跡が付くわけ…」
「“首なし恐竜”じゃない、コイツだ、こいつの足跡」
 桜庭の手には、たった今掘り出したばかりの三つ目のゴジラ土偶が握られていた。

 土偶が作られた古代のこの場所を、ゴジラが歩き去り、住居跡大の巨大な足跡を残すイメージ映像。

「そして、送電用鉄塔が倒れた現場で、防衛隊が埋め戻していたのも、コイツの足跡だ」

 そのイメージのフラッシュバック映像。

「そんな、まさか…」
「早くこの付近から逃げた方がいい。海岸から遠い、出来るだけ内陸部へ行った方がいい…」
興奮が収まりかけた桜庭の眼に、再び熱いものが宿った。
「あの島も…キサたちが危ない!」

 その夜のTVニュースは、日本の漁船が撮影した「大小の背びれの列を海面に出して泳ぐ巨大な生物らしきもの」の映像を放映する。例の“首なし恐竜”の体には、そういった背びれのようなものは付いていないことから、全く別の生物である可能性が高いと、ニュースは伝えていた。
 また、別のチャンネルでは、別の漁船によって夜間に撮影された同様の映像が流されていた。月明かりの海面を、背びれの列が自ら怪しい光を放ちながら、波を掻き分けて進んで行く…。

 桜庭と神取は、再びベルジラ入りし、キサたちのいる島へと急ぐ。
 島では、“双頭の龍神”を祀る儀式の準備の真っ最中であった。島の海岸に“首なし恐竜”が打ち上げられたことを“双頭の龍神”の怒りと見なし、それを鎮めるための儀式(祀り)を行うというのだ。

 桜庭は、島の長老たちに日本の映像を見せて、儀式の準備を止めて島から避難する準備を始めるように説得するが、「“双頭の龍神”を祀る儀式を行わなければ島は滅びる」と言って聞き入れようとしない。キサに説得を頼んでも、「明日にでもゴジラが上陸するという明確な根拠がない以上、少なくとも儀式を終えるまでは避難の準備は無理」と言う。
「儀式の準備の期間中は、“双頭の龍神”を見張るため、海岸に“寝ずの番”が立つから、万が一のことがあっても、逃げることは出来ると思うわ」
 桜庭も、キサにそう言われると引き下がるしかなかった。

 その夜、神取は、ずっと島で調査を進めていたTV局チームから調査報告を受ける。
「この島は、国際的なテロリストのアジトとして機能している可能性が極めて高い。しかも、そのテロリストの中には数人の日本人が混じっている」
 長く続いている不漁による貧困が、テロリストを受け入れる環境を生んでしまったのだ。そして、そのテロリストを支援している組織が、どうやら日本と深く関係しているらしい。
「この映像に映っている4人は、まず間違いなく日本人です。ベルジラの日系人にしては、腑に落ちない点が多すぎます」
「データはもう本社に送信してあるのね? いずれにせよ、慎重に様子を見るしかないわね…」

 翌日も、島では“双頭の龍神”を祀る儀式の準備が進められる。キサも、祀りの当日は姉と一緒に舞いと歌を奉納する予定で、準備に忙しそうだ。
 桜庭はそんな状況下で危機感を募らせつつも、神取たちのTV局チームと共に島中央の山にキャンプを張る。念のため少しでも海岸から離れ、少しでも遠くの海を見渡せる山の上がいいと考えたのだ。 彼らは偶然、そこで日本の古墳に似た遺跡を発見する。

 古墳の中に入ると、そこには大量のゴジラ土偶(土産物屋で売られているような最近作られたものではなく、日本の土偶同様、古代に作られたもの)、ゴジラを描いた壁画があった。更に奥へと進むと、そこには半ば化石化したような巨大な卵の殻、巨大な生物の骨と思われるものが大量に見つかった。一体、これらは何なのか。
 神取のTV局チームのメンバーが口を開いた。
「そう言えば、この島の海岸に打ち上げられた“首なし恐竜”の死骸は、例の巫女の家系の人達によって埋められたと聞いていたけど、もしかすると…」

 更に、古墳の上やその外縁には、着色されたガラスのような材質で出来た小さな墓のような物が、一定間隔で並べられていることも発見された。桜庭は、ガラスのような材質の墓自体は最近になって作られたものだが、その土台の石の部分はかなり古いものであることを見抜く。
「これは、明らかに古墳の一部だ…」

 結局、ベルジラ共和国でも日本でも特に何も起こることなく、“双頭の龍神”を祀る儀式の日となった。巫女の衣装に身を包み、出番を待つキサに、桜庭が話しかける。
「この島の海岸に打ち上げられた、首の千切れた巨大生物…実はアレが、“双頭の龍神”なんじゃないのか?」
「いいえ、違います。あの生き物の名前は、呼んではならない名前なので、今まで教えませんでした。でも、今の私は巫女ですから、一度だけあの生き物の名前を言います。あの生き物は、“ディプロス”」
 キサは、それだけ言うと神段の前へ進み出て、裸足で舞い歌い始めた。すぐに、見る者・聴く者が引き込まれずにはいられない、神秘的な空間が紡ぎ出されていく。

 しかし島の反対側では、そんな儀式とはまるで関係のない一隻の船が、秘密裏に出航していた。
 そして、神取たちTV局チームの元には、本社からの調査結果が届く。あの4人のうち2人は日本防衛隊・海上部隊に所属する防衛隊隊員。他の2人は、民間の船舶会社の社員だった。
「日本の防衛艦の隊員と民間の船員が…何故、ベルジラのテロリストグループに?」
 調査を進める神取たちは、テロリストグループが小型核爆弾を使った同時多発テロを計画していることを突き止めるのだが…。
 
 深夜、ある海域を航行中の船が、所属国籍に関係なく、次々と交信を絶って行方不明になるという事件が発生していた。使用済み核燃料を積んで日本から某国へ向かって出航した日本の核燃料船も、その海域にいた。そして、ベルジラ共和国にアジトを持つテロリストたちを乗せた船も。

 日本の核燃料船は、周到な準備と訓練を行っていたテロリストたちによって、いとも簡単に乗っ取られてしまう。しかし、そのテロリストたちも、光る背びれを持つ巨大生物の大群に襲撃されることなど、予想だにしていなかった。テロリスト・グループは、その時、最悪の選択をした。彼らはパニックに陥り、船に持ち込んでいた小型核爆弾を誤って起爆させてしまったのだ。
 海上一面は暫くの間、禍々しいまでに眩しい明るさに包まれた。その核の炎がもたらす濃密な放射線の嵐の中で、背びれを持つ巨大生物たちは、次々に息絶えていった。
 海から立ち上るキノコ雲が、夜の闇に吸い込まれ始めたとき、巨大な屍の群の中央で、突然何かが光を放った。焼け爛れた背びれの列が、強烈な青白い光を放ちながら、身もだえしているのだ。
 核の炎に焼かれながらも死ぬことを許されなかった何かが、そこに在った。

 翌日の朝早く、桜庭と神取たちのTV局チームは、日本に“ディプロス”2頭と、それを追うゴジラが上陸したことをニュースで知る。
 ディプロスは、胴体とほぼ同じ長さの首を持つ首長竜のような巨大生物だった。
 ゴジラは、ディプロスよりも遥かに大きく、人間に似た姿勢で二足歩行する巨大生物だった。
 しかし、その全身の皮膚は焼け爛れて複雑怪奇な文様(パターン)状になっており、大きな背びれは表面の角質層が焼け落ちて鋭利な骨質部分が剥き出しになっている。それは生ける屍か、意志を持ったガン細胞の集合体を思わせる姿だった。

 ゴジラは海岸線に沿ってディプロスを追うが、2頭は海岸と海を出入りするなど地形を利用して逃げ回る。ゴジラは、自分より遥かに小さい2頭の動きに惑わされ、取り逃がしてしまう。
そんなゴジラに対して、スクランブル出動した陸・海・空の防衛隊が攻撃を始めた。しかし、「核の炎に焼かれながらも死ぬことを許されなかった」ゴジラは、超高温の呼気を爆発的に放射する能力を持った、恐るべき怪物と化していた…。
 
 翌日、日本に大きな被害を与えて海へ消えたゴジラが、今度はベルジラ共和国に向かっていることが明らかになる。
 桜庭と神取たち一行は日本に帰ろうとするが、島に残っていたテロリスト・グループによって全員捕えられてしまう。自分たちの「日本の核燃料船乗っ取り計画」が失敗したことを知ったテロリスト・グループは、桜庭たちを日本政府の手の者だと思い込んでしまったのだ。
 その騒動の際、テロリストの銃の誤射により、キサの姉・ナギが命を落とす(誤射したテロリストも、島の民によって命を絶たれる)。

 島の長は、島の若者から成るテロリスト・グループを島から追放すると同時に、警察には通報しないことを約束する。そして、テロリストが捕えた日本人のうち、桜庭だけが巫女の一族に引き渡された。死んだ姉の代わりに「生贄の巫女」となったキサと共に、“双頭の龍神”に捧げるためである。

 ゴジラが島に刻々と接近し、住民の大部分は島を脱出するが、巫女の一族は島に残って生贄の儀式を進める。そして遂に、キサと桜庭を生きたまま縛り付けた「生贄のいかだ」が、随行役の小船によって沖へと曳かれて行く。
「生け贄なんかで、ゴジラの動きをどうにか出来るわけないだろう! お前達のやっていることは宗教でも何でもない、ただの狂気だ!」
 そんな桜庭の叫びが聞き入られるわけもなく、いかだが海流に乗ったことを確認すると、随行船は島へと戻って行くのだった。
 一方、テロリストは、神取たちのTV局チームを人質として取引に使おう企む。しかし、神取の機転によって、一行は辛くも脱出に成功する。

 キサと桜庭を縛り付けた「生贄のいかだ」は、海流の流れの関係か、本当にゴジラと遭遇するコースを進んで行く。遥か海上を進むゴジラの姿が、桜庭の眼でも確認できるようになってきた。

 同じ時間、島の上空をヘリコプターが通過しようとしていた。ベルジラ共和国警察のヘリだ。神取も乗っている。桜庭の携帯電話が発信する電波を探知して来たのだ。
 島の上空を通過しようとしたその時、ヘリコプターが見下ろす島の中央山に、炎の点で描かれた巨大な地上絵が現れた。

「ゴジラ…ゴジラの地上絵だわ!」
 古墳の上に配置された小さなガラスの墓に炎がともされたことにより、空から見てようやく分る大きさの、巨大なゴジラの地上絵が現れたのだ。続いて、その古墳上のゴジラ地上絵を取り囲むように、更に大きな別の地上絵が現れた。ゴジラよりも更に一回り大きな胴体と、その2倍の長さの首を持つ、巨大なデュプロスの地上絵だ。

 同時刻、海上を進むゴジラの前に、巨大デュプロスが出現した。一瞬の逡巡も見せず、巨大デュプロスに襲いかかるゴジラ。巨大デュプロスは、その巨体でゴジラを囲み込むようにして迎え撃つ。海上で、2頭の巨大生物の、通常の生物の域を越える壮絶な格闘が始まった。

 キサと桜庭のいかだは、徐々にゴジラと巨大デュプロスに近付いていく。
 しかし、危ういところで神取を乗せたベルジラ共和国警察のヘリコプターが間に合い、二人を救出する。その際、キサと桜庭は、巨大デュプロスの長い首がゴジラの首に巻き付き、互いに噛みつき合っている様子を目撃する。
「双頭の龍神…」
 ゴジラと巨大デュプロスは、絡み合ったまま海中へと沈んでいくのだった…。

 島に着陸するヘリ。ヘリから降りてきたキサと桜庭に、島の長が近寄る。
「“双頭の龍神”を見たのか」
「はい…」
「そうか…これで島は救われた」
 伝説では、生贄として海に流された巫女が、“双頭の龍神”を目撃し、生きて島に戻ってくることが出来たのなら、島もまた救われると伝えられていたのだ。
 桜庭は、今は何故か、その伝説を信じられる気がしていた。

 結局、伝説の通り、ゴジラも巨大デュプロスもそれ以来姿を見せなくなり、島も救われた。

 夕焼けに染まる南国の海辺。寄り添って立つ、桜庭とキサ。
「あと1000年経ったら、また“双頭の龍神”が現れるのかしら…」
「1000年周期で海の生態系に変動が起こっているのが本当なら、“双頭の龍神”が、その1000年という長いサイクルで陸上に出現するということも、考えられるんじゃないかな」
「もしそうだとして、伝説がずっと語り継がれたら、1000年後の人々も生贄を出そうとするのかしら。科学も今よりずっと進んでいるはずでしょう?」
「その進歩した科学で、人類は自らを滅ぼすかも知れない。1000年後、ゴジラの同類が再び陸上に現れるとしたら、彼は一体どんな世界を見ることになるんだろう?…」

 二頭の怪獣を飲み込んだ大海原は、寄り添う二人を前にして、ただ波の音を聞かせるのだった。


                       《 終 》
スポンサーサイト

コメント

またお邪魔します。
過去記事等々読ませていただきました。長い間ファンを続けてこられた年季を感じます。私はファンと言うには邪道な部類に属すると思うので……ファンとして作品世界の内側からキャラクターや世界観や造形そのものの美しさなどを語るのではなく、「何故、そのキャラクターはそのように描かれるのか、何故そのような舞台設定・世界観が採用されるのか、何故そこに描かれる正義が正義として通用するのか」 を出来る限り外側から、或いは角度を変えて考察してみたい、というのがアニメや特撮を見ている一番の動機なので、震電さんの記事を読むのはちょっと後ろめたいような気もするのですが…とても面白いですし、いろいろ参考になります。映画の企画は、出来ればストーリー・ダイジェストではなく、小説で読んでみたいです。 「避難命令 ゴジラ警戒区域」 と 「ゴジラ地獄」 が好いですね。

昔からゴジラは (モスラやガメラも含めて) 話のスジとはあまり関係なく、悲しくて直視できない…というところがありました。どうあっても共存できない、相容れない存在として彼等は在るわけで、その絶対的な距離が、自分の場合 “悲しさ” となってフィードバックして来るという…。感傷ですけれど(笑)。

 コメントありがとうございます。
 ファンの在り方は、やおいを除外すれば、何でも有りだと思います。私も商業論、構造論、記号論的な観方をすることもあれば、ドラマやキャラクターの良し悪しを語ったり、ミーハーな視点で楽しんだりと、一定していません(基本は「カッコイイ!」とか「凄い!」とか「ハラハラドキドキ」という直感的な部分だと自覚しています)。
 いずれにせよ、私の書いたものに関しては、気楽な気分で読んで頂ければ幸いです。

 映画の私案記事も読んで頂き、ありがとうございます。小説にするのは大変ですし、表現したいのは飽く迄も映像のイメージなので、絵コンテを文章化する気分で書いてあります。若い頃(10代20代)は同人小説サークルで活動していた経験もあるので、年に1作くらいはショート・ショートを書きたいなとは思っているのですが。

 怪獣に関しては、私はチャンピオン祭り世代の人間です。
 ビルが林立する都市を歩くと、向こうのビルの後を怪獣が歩いている姿を想像したりします。海を見れば水平線の彼方には怪獣島があって、今まさに怪獣が日本を目指して海を渡っているところなのだと想像したりします。「怪獣が日本に現れる」のは、半ば常識でしたから。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://sinden.blog6.fc2.com/tb.php/808-6306bf30

«  | HOME |  »

MONTHLY

CATEGORIES

RECENT ENTRIES

RECENT COMMENTS

RECENT TRACKBACKS

APPENDIX

震電

震電

 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。