2017-08

赤おにと青おにの山

赤おに青おにの山

 ある日のことでした。
「こどもが、ほしいね」
「こどもが、ほしいね」
 おかあさんと おとうさんは、じぶんたちの こどもがほしくなりました。

 おかあさんが、いいました。
「でも、どうしたら こどもを さずけてもらえるのかしら」
 おとうさんが、こたえました。
「こどもはみんな、かみさまからの さずかりものだと きいたことがあるよ」
「それなら、かみさまに おねがいしてみましょう」
 おかあさんは そういいって、おとうさんのてを にぎりました。おとうさんも、おかあさんのてを ぎゅっと にぎりかえしました。
 そのよるは、よぞらに まんげつがでていました。
おかあさんと おとうさんは、まんげつをみながら かみさまに おねがいしました。
「どうか、わたしたちに こどもを さずけてください」
 おいのりしながら、ふたりは ねむってしまいました。

 すると ふたりのゆめのなかに、かみさまが いらっしゃったのです。かみさまは ふたりに いいました。
「ある森の おくふかくにある木のてっぺんで、こどもがひとりぼっちで ないています。このこどもを たすけだすことができたなら、あなたたちに さずけてあげます」
 あさになって、おかあさんと おとうさんは めをさましました。
「きのうのよる、わたしのゆめのなかに かみさまが きてくださったわ」
「ぼくのゆめのなかにも、かみさまが きてくださったよ」
おかあさんと おとうさんは、きのうのよる みたゆめのことを はなしあいました。
「でも、こどものいる森は どこにあるんだろう」
「しっ。しずかにして」
 おかあさんが、くちびるにゆびをあてて みみをすませました。
「こどもの なきごえが きこえるわ」
 おとうさんも、いきをひそめて みみをすませました。
 すると おとうさんにも、かすかに こどものなきごえが きこえてきたではありませんか。
 ふたりのみみには、ずっとずっと とおいところでないている こどものこえが、たしかにきこえるのです。
「こどもを さずかりにいこう」
 おとうさんが そういうと、おかあさんは にっこりとわらって うなづきました。

 おかあさんと おとうさんは、いえをでると こどものなきごえが きこえてくるほうへと、むかいました。
 はしをいくつも わたり、まちをいくつも とおりぬけ、いつしか 大きな大きな森の ちかくまで やってきました。
「この森のおくから、こどものなきごえがきこえるわ」
 おかあさんが、森をみつめて そういいました。
「よし、いこう」
 おとうさんが、おかあさんの てをにぎり、ふたりは いっしょに 森のなかへと はいっていきました。
 しばらくすると、門が みえてきました。
 ちかくまでいくと、その門は おとうさんの せたけよりも もっともっとたかく、それが みぎにも ひだりにも、みわたすかぎり ずーっと つづいているのです。
 おとうさんは、門をみあげて いいました。
「こまったな、これでは むこうへ いけないよ」
 おかあさんは、もういちど まわりをみまわしました。すると すこしはなれたところに、おばあさんが ひとり ぽつんと たっていました。
 おかあさんと おとうさんは、おばあさんに はなしかけてみました。
「おばあさん、おばあさん。わたしたちは、この門を とおって むこうへ いきたいのですが」
 おばあさんは、いいました。
「門をあけてあげてもいいけどね、森のおくには 赤おにと 青おにがいて、にんげんのこどもを さがしまわっておるのだよ」
 おかあさんは、びっくりして いいました。
「そのこどもは、わたしたちが かみさまから さずけてもらった こどもです」
 おかあさんは、じぶんたちが この森にやってきたわけを、おばあさんに はなしました。
「おやおや、それでは おまえさんたちは 赤おにと 青おによりも さきに、こどもをみつけて たすけださないといけないね。さもないと、おにたちが こどもを たべてしまうよ」
「えっ、それはほんとうですか」
 おとうさんは、びっくりして ききかえしました。
「ほんとうだとも。赤おにも 青おにも にんげんをみつけたら、おとなであろうと こどもであろうと おそってたべてしまうのじゃ。あたまから ばりばりと たべてしまうのじゃ」
 おかあさんと おとうさんは、おばあさんから おにのはなしをきいて こわくなりました。おとなでも、みつかったら たべられてしまうからです。
 それでも ふたりのみみには、こどものなきごえが きこえています。そのこえをきいているうちに、こわいとおもうこころより、こどもをたすけだしたいとおもうこころのほうが、つよくなりました。
 おかあさんと おとうさんは、おばあさんに いいました。
「こどもを たすけだしにいきます。門をあけてください」
おばあさんは、うなづきました。
「そうかい、そうかい。でも、そのままだったら すぐおにたちに みつかってしまうよ。
 ふくも くつも、町のにおいが たっぷりしみこんでいるから、おにたちに みつかってしまうよ。ぜんぶ ここで ぬいでいきなさい」
 おかあさんと おとうさんは、そういわれて とまどいました。でも、おにたちに みつかってしまっては たいへんです。ふたりとも、ふくも くつも ぜんぶぬいで、はだかになりました。
 おばあさんは、ふところから かぎをだして、門をあけてくれました。
「ありがとう、おばあさん。それでは いってきます」
おかあさんと おとうさんは、門のむこうへと あるいていきました。

 しばらくすすむと、大きな大きな川が みえてきました。川のはばが とてもひろくて むこうぎしが みえないくらい、大きな川です。
 川のそばには、おじいさんがひとり、ぽつんと たっていました。おかあさんと おとうさんは、おじいさんに はなしかけてみました。
「おじいさん、おじいさん。木のてっぺんでないている こどもを しりませんか。そのこどもは、わたしたちが かみさまから さずけてもらったこどもなのです」
 おじいさんは、こたえました。
「そのこどもなら、この川をわたった むこうにいるよ」
 おとうさんは、みみをすませました。たしかに、むこうぎしのほうから、こどものなきごえが きこえてきます。
「ふねは ありませんか」
おかあさんが たずねると、おじいさんは くびをよこにふって こたえました。
「赤おにや 青おにが わたってくるといけないから、ふねは おいてないのじゃ。こどもをたすけだしたかったら、およいで川をわたりなされ。はやくしないと、こどもが おにたちに たべられてしまうよ」
「わかりました、おじいさん。それでは いってきます」
 おかあさんと おとうさんは、ざばざばと 川にはいっていきました。
 おかあさんと おとうさんは、川のながれに まけないように、いっしょうけんめい およぎつづけました。
 でも、およいでも およいでも、なかなか むこうぎしにつきません。
「こどものなきごえが、きこえなくなったわ。もう、赤おにに たべられてしまったのかしら」
 おかあさんが、いいました。
「ちがうちがう、みずのおとで きこえにくいだけさ。じっと みみをすませてごらん、こどものなきごえが むこうぎしのほうから きこえてくるよ」
 おとうさんが、こたえました。じっと みみをすませてみると、みずのおとにまじって、かすかに こどものなきごえが きこえてきます。
「もうすこしだ、がんばろう」
 おとうさんに はげまされ、おかあさんは およぎつづけました。そして、とうとう ふたりは むこうぎしまでたどりつきました。

 川からでて、あたりをみまわしても こどものいる木はありません。
 しばらくすすむと、山のふもとに つきました。
 山のふもとには、どうくつの いりぐちが ありました。おとなが たってあるけるほどの大きさで、でぐちがみえないくらい、ながいどうくつです。
 どうくつの いりぐちのそばには、おばあさんがひとり、ぽつんと たっています。門のところにいた おばさんより、もっとしわしわのかおをした おばあさんです。
 おかあさんと おとうさんは、おばあさんに はなしかけてみました。
「おばあさん、おばあさん。木のてっぺんでないている こどもを しりませんか。そのこどもは、わたしたちが かみさまから さずけてもらったこどもなのです」
 おばあさんは、こたえました。
「そのこどもなら、このどうくつを とおりぬけた むこうにいるよ」
 おかあさんは、みみをすませました。たしかに、どうくつの でぐちのほうから、こどものなきごえが きこえてきます。
 でも どうくつのなかからは、つよいかぜが、びゅうびゅうと ふきだしています。なかにはいったら、かぜにふきとばされてしまいそうです。
「ほかの みちはありませんか」
 おとうさんが たずねると、おばあさんは くびをよこにふって こたえました。
「赤おにや 青おにが やってくるといけないから、ほかのみちは ないのじゃ。こどもをたすけだしたかったら、このどうくつを とおりなされ。はやくしないと、こどもが おにたちに たべられてしまうよ」
「わかりました、おばあさん。それでは いってきます」
 おかあさんと おとうさんは、びゅうびゅうと ふきだすかぜに さからって、どうくつのなかへ はいっていきました。
 おかあさんと おとうさんは、かぜに とばされないように、いっしょうけんめい あるきつづけました。
 でも、あるいても あるいても、なかなか でぐちに つきません。
「こどものなきごえが、きこえなくなった。もう、青おにに たべられてしまったのかな」
 おとうさんが、いいました。
「いいえ、かぜのおとで きこえにくいだけ。じっと みみをすませてごらんなさい、こどものなきごえが でぐちのほうから きこえてくるわ」
 おかあさんが、こたえました。じっと みみをすませてみると、かぜのおとにまじって、かすかに こどものなきごえが きこえてきます。
「もうすこしよ、がんばって」
 おかあさんに はげまされ、おとうさんは あるきつづけました。そして、とうとう ふたりは どうくつのでぐちまで たどりつきました。

 どうくつからでると、そこは山の まんなかあたりでした。
 したをみおろすと 山が大きく ひろがっています。
 うえをみあげると 山が小さく とがっています。 
 でも、あたりをみまわしても こどものいる木はありません。
 おかあさんと おとうさんは、じっとみみをすませました。すると、山のちょうじょうのほうから、こどものなきごえが きこえてくるではありませんか。
「山のちょうじょうへ いこう」
「いきましょう」
 おかあさんと おとうさんは、山のちょうじょうをめざして さかみちを あるきはじめました。
 でも、さかみちを あるいても あるいても、なかなかちょうじょうには つきません。
「山の ちょうじょうは まだかなあ。もう おなかが ぺこぺこだよ」
 おとうさんが いいました。そういえば、あさ いえをでてから なにもたべていないのです。
「山の ちょうじょうは まだかしら。もう のどが からからだわ」
 おかあさんが いいました。そういえば、あさ いえをでてから なにものんでいないのです。
 でも、ふたりは たべものも のみものも、もっていません。あたりをみまわしても、たべものも のみものも、みつかりません。
「きっと もうあとすこしだ、がまんしよう」
「そうね もうすぐだわ、がまんしましょう」
 おかあさんと おとうさんは、おなかがすいたのを がまんして、のどが かわいたのを がまんして、さかみちを あるきつづけました。
 でも、さかみちを あるきつづけても あるきつづけても、まだまだ さかみちは つづくのです。
「こどものなきごえが きこえなくなった。もう、青おにに たべられてしまったのかな」
 おとうさんは、そういって たちどまってしまいました。
「こどものなきごえが きこえなくなったわ。もう、赤おにに たべられてしまったのかしら」
 おかあさんも、そういって たちどまってしまいました。 おかあさんも おとうさんみも、もう へとへとに つかれてしまったのです。みみをすましても もう かぜのおとしか きこえません。
 こどもをさずけてもらうために ここまで いっしょうけんめい がんばってきたのに、どうしたことでしょう。ふたりとも しゃがみこんで、なきだしたくなってしまいました。
 そのときです。こどものなきごえが、とつぜん はっきりときこえてきました。おかあさんと おとうさんは、びっくりして かおをみあわせました。
「きこえるかい」
「きこえるわ」
 こどものなきごえは、ほんとうに そうとおくないところから きこえてくるようです。
「もうすこしよ、がんばって」
「ああ もうすこしだ、がんばろう」
 おかあさんと おとうさんは、おたがいにはげましあって あるきつづけました。そして、とうとう ふたりは 山のちょうじょうに たどりつきました。

 山のちょうじょうには、いっぽんの ほそくて せのたかい木が はえていました。その木のてっぺんで、小さな小さなこどもが ひとりぼっちでないています。
「あそこだ、あそこだ」
「はやく木から おろしてあげましょう」
 おかあさんと おとうさんは、いそいで木のところまでやってきました。
 近くまでよってみてみると、こまったことに 木のみきにも えだにも するどいとげが、たくさんはえているではありませんか。
「ぼくが のぼろう」
 おとうさんは、そういって えだをつかみました。えだにはえているとげが てのひらにささって ずきずきと いたみましたが、おとうさんは がまんして そのまま木にのぼろうとしました。
 すると、木のえだは ぽきんと おとをたてて おれてしまいました。
 おとうさんは、べつのえだをつかんで もういちど のぼろうとしました。すると、さっきとおなじように 木のえだは ぽきんと おれてしまいました。
 てのとどくところに はえているえだは、もうあと いっぽんしかありません。
「わたしが のぼるわ」
 おかあさんは そういうと、おとうさんが なにかこたえようとするまえに、木のえだをつかみました。えだに はえているとげが てのひらにささって ずきずきと いたみましたが、おかあさんは がまんして そのまま木にのぼろうとしました。
 木のえだは すこしまがっただけで、おれません。
 でも、そのかわりに木ぜんたいが ぐらぐらゆれて、かたむきそうになりました。
「おとうさん、みきを ささえて」
 おとうさんは、あわてて木のみきを りょうてでささえました。すると、木のゆれは ぴたりととまって まっすぐに もどりました。
 おかあさんは、木のみきに あしをかけて、木をのぼりはじめました。
 木をのぼる おかあさんの てのひらや あしのうらには とげがささり、ちが ながれだしました。それでも おかあさんは ひっしに いたみをがまんして、のぼりつつげました。木のてっぺんにいる 小さなこどもを たすけるために、いたみをがまんして のぼりつづけました。
「おかあさん、がんばれ」
 おとうさんは、したで木のみきをささえながら、おかあさんを はげましつづけました。
 そして、とうとう おかあさんは、木のてっぺんに たどりつきました。
 木のてっぺんで ないているこどもは、ほんとうに小さな小さなこどもでした。はだかんぼうで、はだのいろは まるで つちのいろのようでした。
 おかあさんは てをのばして、そうっと こどもを木のてっぺんから すくいとりました。
 おかあさんの てのひらは、ちで まっかにぬれていたので、こどもの はだは みるみる まっかに そまっていきました。
「ああ、あなたは わたしの こどもなのね」
おかあさんは、うれしくて なみだがでそうになりました。
「おとうさんにも、はやくみせてあげたいわ」
 おかあさんは、こどもをかたうでで むねにだきかかえると、木をおりはじめました。
 ぶじに じめんまでおりた おかあさんは、むねにだいた こどもを、おとうさんにみせました。
「ああ、ぼくたちのこどもだね。おかあさん、いたいのをずっとがまんして ほんとうに ごくろうさま」
 おとうさんは、おかあさんから そっと こどもをうけとって むねにだきかかえました。こどもが あまりにも 小さくて よわよわしいので、おとうさんは こわれてしまわないかと どきどきしました。でも、まっかなはだをした小さなこどもは、おとうさんのむねで げんきに ないています。おとうさんは、このこが じぶんのこどもなんだとおもうと うれしくて なみだがでそうになりました。
 そのときです。
「こどもは どこだぁ~」
「こどもは どこだぁ~」
 おそろしげな こえが とおくのほうから きこえてきました。おとうさんと おかあさんは、びっくりして かおをみあわせました。
「赤おにと 青おにの こえだ」
「このこを みつけて たべてしまうつもりだわ。はやく山からおりましょう」
 おかあさんと おとうさんは、こどもをだいて いそいで山をおりはじめました。
「にんげんが いたぞぉ~」
「こどもを だいているぞぉ~」
 さかみちを くだっていた おかあさんと おとうさんは、はっとして うしろを ふりかえりました。すると、山のちょうじょうに 赤おにと 青おにが ならんでこちらをみおろしているではありませんか。 
「まてぇ~」
「こどもを わたせぇ~」
 赤おにと 青おには、おそろしげなこえで さけびながらおかあさんたちを おいかけてきました。
 おにたちに つかまっては たいへんです。おかあさんと おとうさんは、こどもをだいて おおいそぎで さかみちをかけおりていきます。
 でも、赤おにと 青おには、さかみちをころがるようないきおいで、おいかけてきます。おかあさんと おとうさんも、こどもをだいたまま いっしょうけんめいに はしっているのですが、赤おにと 青おには、どんどん おいついてきます。
「こどもをわたせぇ~」
「こどもをわたせば、おまえたちは たべないで にがしてやるぞぉ~」
 赤おにと 青おにの、大きなこえが うしろからきこえてきました。おかあさんは、こわくて からだが いしのように かたまってしまいそうになりました。でも、きもちをふるいたたせて 大きなこえで いいかえしました。
「こどもは わたさないわ。赤おに、青おに、山へかえれ」
 おかあさんと おとうさんが、こどもをだいていっしょうけんめいに はしりつづけますと、くるときに とおったどうくつが みえてきました。しわくちゃのかおをした おばあさんが、そのすぐわきに たっています。
「おばあさん、赤おにと 青おにが きた」
 おとうさんは、はしりながら 大ごえでさけびました。
 でも おばあさんは にげようともしないで、おとうさんたちに どうくつをとおりなさいと みぶりで しめすだけなのです。  
 こどもをだいた おとうさんと おかあさんは、はしるいきおいもそのままに どうくつのなかへ はいっていきました。おばあさんも そのあとすぐに どうくつのなかへ はいっていきました。そして、赤おにと 青おにも、すぐにあとをおって どうくつへ はいっていきました。
 どうくつにはいった 赤おにと 青おには、あっというまに おばあさんに おいつきそうになりました。けれども、もうあといっぽというところまでくると、かぜが びゅうびゅうと ものすごいいきおいで ふいてきて、どうしても おばあさんにおいつけません。
 ですから 赤おにと 青おには、ゆっくりとあるく おばあさんの すぐうしろを、びゅうびゅうふきつける かぜにさからいながら、やっぱり ゆっくりとあるいていくしかありません。
 おばあさんの まえをはしる おかあさんたちには、ぜんぜん かぜはふいてきません。こどもをだいた おかあさんと おとうさんは、どうくつのなかを ばたばた はしりぬけていきました。
赤おにと 青おにが、かぜにさからいながら なんとかどうくつからでてきたときには、おかあさんたちは、もうずいぶんとさきのみちを はしっていました。
「まてぇ~」
「こどもを わたせぇ~」
 赤おにと 青おには おそろしげなこえで さけびながらすごいいきおいで はしりだしました。
 ふしぎなことに、おばあさんのすがたは どこにもみえません。ただ どうくつのすぐよこに、ちいさなおじぞうさまが ぽつんとたっているのでした。

 おとうさんと おかあさんは、こどもをだいて おおいそぎで みちをはしっていきます。
 でも、赤おにと 青おには、つちけむりをあげながら、すごいはやさで おいかけてきます。おかあさんと おとうさんも、こどもをだいたまま いっしょうけんめいに はしっているのですが、赤おにと 青おには、どんどん おいついてきます。
「こどもをわたせぇ~」
「こどもをわたせば、おまえたちは たべないで にがしてやるぞぉ~」
 赤おにと 青おにの、大きなこえが うしろからきこえてきました。おとうさんは、こわくて しんぞうが ばくんばくんして むねがくるしくなってきました。でも、きもちをふるいたたせて 大きなこえで いいかえしました。
「こどもは わたさないぞ。赤おに、青おに、山へかえれ」
 おとうさんと おかあさんが、こどもをだいて いっしょうけんめいに はしりつづけますと、くるときに わたった大きな川が みえてきました。川のそばには、おじいさんがひとり、ぽつんと たっています。
「おじいさん、赤おにと 青おにが きたわ」
 おかあさんは、はしりながら 大ごえでさけびました。
 でも おじいさんは にげようともしないで、おかあさんたちに こちらへきなさいと みぶりで しめすだけなのです。
 こどもをだいた おとうさんと おかあさんは、おじいさんのほうへ はしっていきます。おじいさんは、ふところから おまもりをとりだして 川のみずぎわに ひょいと なげました。すると おまもりは みるみる大きくなって、まるでゴムボートのようになりました。
「さあ、はよう のりなされ」  
 おじいさんと おとうさんたちは、ゴムボートのような おまもりのうえに のりました。すると みんなをのせた大きなおまもりは、かぜもないのに するすると 川のうえを すすんでいくのです。そして、まるで むこうぎしからひっぱられているかのように すいすい 川をわたりはじめました。
 赤おにと 青おにも、川までやってきました。みんなをのせた大きなおまもりをおって、ばしゃばしゃと川へ はいっていきます。赤おにと 青おには、ものすごい水しぶきをあげて およぐのですが、川のながれがつよいので なかなかまえへ すすみません。
 ゴムボートのような大きなおまもりは、みんなをのせたまま すいすい 川をよこぎって、むこうぎしへと つきました。
 おとうさんと おかあさんは、こどもをだいて おまもりのうえから おりました。
「さあ、はよう もんのところまで いきなされ」
 おじいさんのこえがして うしろをふりかえってみると そこには だれもいません。ついさっきまで のっていたはずの ゴムボートのようなおまもりも ありません。
 でも、赤おにと 青おにが、水しぶきをあげながら こちらへやってくるのは はっきりとみえます。
「まてぇ~」
「こどもをわたせぇ~」
 おにたちに つかまっては たいへんです。おかあさんとおとうさんは、こどもをだいて おおあわてで かけだしました。川のそばに ちいさなおじぞうさまが たっていて、そのくびにかけてある おまもりが、みずでびっしょり ぬれていたことには だれもきがつきませんでした。

 おかあさんと おとうさんが、こどもをだいて いっしょうけんめいに はしりつづけますと、くるときに とおった大きな門が みえてきました。おかあさんと おとうさんは、ほっとして えがおになりました。
 そのときです。
「こどもをわたせぇ~」
「わたさないと、おまえたちも いっしょに たべてしまうぞぉ~」
 赤おにと 青おにの、おそろしげなこえが とおくからきこえてきました。はっとして うしろをふりかえると、赤おにと青おにが、すごいいきおいで こっちへ はしってくるではありませんか。
 こどもをだいた おかあさんと おとうさんは、おおいそぎて 門のところへ かけよりました。門は ぴたりととざされています。そのむこうに、おばあさんがひとり たっています。
「おばあさん、こどもを たすけだしてきました。門をあけてください」
 おとうさんと おかあさんは、おばあさんにいいました。おばあさんは、ふところから かぎをとりだして 門をあけてくれました。こどもをだいた おかあさんと おとうさんが門をとおりぬけると、おばあさんは すぐに門をとじて かぎをかけました。
 そのすぐあと、赤おにと 青おにが、門のところへやってきました。
「門をあけろぉ~」
「こどもをわたせぇ~」
 おにたちは そうさけびにがら、門をこじあけようとしますが、かぎが しっかりかかっているので ひらきません。 おばあさんは、おかあさんと おとうさんにいいました。
「このかぎは、そのこどもが よいこに そだてば、いつまでもこわれずに この門をとざしつづけるだろうよ。  でも、もし そのこどもが わるいこに そだてば、かぎはこわれて この門は ひらいてしまうのじゃ」
 おかあさんと おとうさんは、こたえました。
「かならず このこを よいこに そだてます」
それをきいて、おばあさんは うれしそうに うなづきました。
「それでは、ふくをきて いえに かえりなされ」
 おかあさんと おとうさんは、くるときに 門のところでぬいでいった ふくをきて、くつをはきました。おばあさんは、おかあさんと おとうさんが ふくをきているあいだに、こどもに かわいいふくを きせてくれました。
「おばあさん、どうもありがとう」
 おかあさんと おとうさんが、ぺこりと おじぎをして かおをあげたとき、おばあさんのすがたは きえていました。門のむこうにいた赤おにと 青おにも、いつのまにかいなくなっていました。
 こどもは おかあさんにだかれて、きもちよさそうに ねむっています。おかあさんと おとうさんは、しばらくこどものねがおを みつめていました。
「いえに かえろうか」
「いえに かえりましょう」
 おとうさんと おかあさんは、こどもをだいて いえに かえっていきました。

 こうして おかあさんと おとうさんは、こどもをさずかったのです。
 おかあさんと おとうさんは、ときどき 赤おにと 青おにのことを おもいだします。あのおそろしい おにたちは きっといまでも こどもを ねらっているに ちがいありません。
 もし、こどもが わるいこに そだてば、あの山から 赤おにと 青おにがやってきて こどもを さらっていってしまうでしょう。
 そんなことは、ぜったいに おこってほしくありません。
 だから おかあさんと おとうさんは、こどもが わるいこになろうとすると しかるのです。
 こどもが たいせつだから、しかるのです。

                          〈おわり〉


(1999年4月1日頃 執筆 by震電)
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