2017-08

WBC世界バンタム級タイトルマッチ 長谷川穂積 VS ヘナロ・ガルシア

第3回ワールド・プレミアム・ボクシング in 日本武道館
  WBC世界バンタム級タイトルマッチ
        長谷川穂積 VS ヘナロ・ガルシア

  2006年の会場で観た試合:4回目
  観戦日:2006年11月13日(月)

 前回の長谷川 VS ウィラポン戦において、ウィラポンが一度だけ試合の主導権を支配したときがあった。8ラウンド、ウィラポンが執拗にボディ攻めを行ったときがそれだ。長谷川は脚を使って捌こうとしたが捌ききれず、6回まで掴んでいた試合の流れを一時的に手放してしまった。
 ガルシア陣営の見出した「長谷川対策」は、これだったのだろう。
 そしてガルシアは、この「長谷川対策」を愚直なまでに実行した。

 サウスポー・スタイルのボクサーは、ボディの急所である肝臓を相手に近い側に向けている。オーソドックス・スタイルのボクサーは左拳を前にして構えるため、サウスポーを相手にした場合、相手の肝臓は自分の左拳から近い位置にある攻撃目標ということになる。ここに有効打を叩き込めれば、場合によっては一発で大きなダメージを与えることが可能だ。
 実際、ロレンソ・パーラはサウスポーに構えたブライム・アスロウムにそういったボディブローをクリーンヒットさせ、その一発でアスロウムに後退を余儀なくさせている。

 しかし、このボディブローはフックまたはアッパーで「ボディの側面手前の一点」を狙い打つことになるため、難易度が高い。相手がステップバックすれば空振りに、相手が距離を詰めてきたら肝臓ではなく背中を打つことになってしまうのだ。背中を打つのは反則であり、その意味でこのボディブローは「面」ではなく「点」に対する打撃ということになる。
 オーソドックス同士でレバーブローを狙い打つ場合は、相手がステップバックしても鳩尾など腹部の別の部位に当たる可能性があるし、相手が距離を詰めてきても多くの場合は単なるミスブローになる(軌道が低い場合は、タイミングによってはローブローになる)。オーソドックスがサウスポーにレバーブローを命中させることは、単なる経験の少なさだけでなく、こういった構造的な困難さを伴う。

 このためか、ガルシアが選んだボディブローは、自分の右拳で相手の腹部中央を狙うというものが主だった。オーソドックスがサウスポーのボディを狙う場合、右フック(または有効なポジショニングからの右ストレート)なら、点ではなく面に対する打撃となる。それがレバーブローとなる確率は極めて低いが、空振りや反則打になる確率もまた低い。即ち、ボディのどこかに当たる可能性が高くなるということだ。

 ガルシアは、初回からこのパンチを使っていった。
 しかも、ボディを狙うときだけではなく、顔面を狙うときでも頭から突っ込んで行くという荒々しさ。長谷川は否応無しに、常にバッティングを意識させられることになった。
 最悪のケースは、ガードを下げてボディブローをブロックした瞬間に顔面にバッティングを喰らい、そこからの連続動作でボディからの返しのフックを顔面に打ち込まれるというパターンである。もしもこれでダウンしたら、レフェリーの立ち位置によってはバッティングを確認することが出来ず、フック(ボディ)→フック(顔面)の、パンチのみの効果でダウンしたと見做されることも有り得る。

 また、いわゆるスライマン・ルールが適用される場合、偶然のバッティングによって選手が出血した場合、出血しなかった方から無条件に1ポイントが減点される。ぶつけられた方が出血せず、ぶつかっていった方が出血した場合でも、ぶつけられた方が減点されてしまうのだ。
 長谷川は比較的出血しやすい選手なので、「ぶつけられて減点」という可能性は低いが、バッティングによるカットをパンチによるカットと誤審される危険性もある。

 これらを考えると、バッティング覚悟で頭から突っ込んでくるガルシアの戦法は、長谷川にとって非常に厄介なものと言える。そして実際に、長谷川は苦戦を強いられた。

 この試合を見ていて思い出したのは、ホルヘ・リナレス VS サオヒン・シリタイコンドーの一戦である。サオヒンは低い姿勢で突っ込んではリナレスのボディへストレートを伸ばし、リナレスはそれをフットワークで捌き続けた。終始脚を使い続けたため、リナレスが相手に打ち込んだクリーンヒットの数は少なかった。しかし、相手から打ち込まれたクリーンヒットはもっと少なく、10ラウンド戦い終えてもリナレスの顔は綺麗なままだった。

 長谷川は、ガルシアの突進に対し、半分はフットワークで捌き、半分は正面から受け止めている。その結果、相手に打ち込んでいるクリーンヒットの数は、サオヒンと戦ったときのリナレスよりも遥かに多い。しかし、相手から貰っているクリーンヒット、そして貰っているバッティングの数も、遥かに多いのだ。

 4ラウンドには、長谷川の左アッパーがクリーンヒットしてガルシアがダウンする。この際、ガルシアの体が大きく吹っ飛んだのは、アッパーのヒットと同時にガルシアが自分の脚を長谷川の脚に引っ掛けてバランスを崩していたからである。(ガルシアの自業自得で、長谷川に非はない)
 4ラウンド終了時点では、2人のジャッジが長谷川にフルマークをつけており、数字の上では圧倒的な優勢になっていた。しかし、それが額面通りのものでないこともまた、事実であった。

 ガルシアは、長谷川から相当の数の有効打を顔面とボディに喰らっているにもかかわらず、6ラウンドに入っても前進を緩める気配がない。この回、長谷川はラウンド開始直後からフットワークで捌こうとするが、捌ききれずにガルシアに捕まるといった展開が繰り返される。
 有効打は両者互角だが、手数はガルシアの方がやや多い。また、この試合展開では主導権支配はガルシア側にあると見るべきだ。となると、ポイントはガルシアの方へと流れ込む。
 
 7ラウンドは、長谷川がサイドステップを使わなくなったことからガルシアとの真正面からの打ち合いになる場面が多くなった。
 そして、恐れていた長谷川のカットは、パンチによるものとの裁定が下る。
 そのすぐ後に、ウィラポンをKOしたときと同じコンビネーション、「左ストレート(ヒットせず)→右フック(カウンターヒット)」が決まるが、当りがもう一つ浅い。ガルシアは特にふらつきを見せることもなく反撃してくるが、長谷川も手応えはあったのだろう、猛然とラッシュを始める。いいパンチが入るが、それでもガルシアは揺るがない。
 このラウンドは、比較的軽めである有効打の数の累積を取るか、少数だが強烈な有効打を評価するかで、採点の割れるところとなった。

 8ラウンドに入ると、ガルシアの「ボディを打っては頭を付け、クリンチの状態で自然にバッティング」というパターンが露骨になってくる。さすがの長谷川も苛立ちを隠せず、レフェリーにアピール。
 そして、当然の流れと言うべきか、偶然のバッティングによって長谷川が右目の上を大きくカット。ガルシアにも僅かながら出血があったのか、両者に対して減点が行われる。
 この嫌な流れを変えたのは、またしても長谷川の右カウンターだった。長谷川がダウンを奪ったことにより、このラウンドは10対8で決まりである。前の2ラウンド分の不利を、これで一気に相殺した。

 ガルシアが頭から突っ込んでくる以上、フットワークで体ごと避けるのが得策である。
 しかし、9ラウンド以降も、長谷川がロープに詰まってガルシアの乱打戦に巻き込まれる場面が目に付く。2度ダウンしているガルシアのしつこい前進に、ダウンのダメージはほとんど感じられない。

 10ラウンドに長谷川がラッシュを仕掛けるも、両目上のカットの影響からか、パンチの精度がいまひとつで、ダウンを奪うには至らない。逆に長谷川が脚を止めると、ガルシアはへばりつくようにくっついて左右を連打する。
 スタイリッシュなボクシンを身上とする長谷川が、ガルシアのネチネチしたしつこいボクシングに無理やり付き合わされているという印象である。

 11ラウンドは、長谷川がガルシアの突進をかわしてサイドに回りこむことに成功しても、そこから長谷川のパンチが繰り出されることがない。ロープやコーナーに詰められると、長谷川は明らかに苦しそうな表情を浮かべる。
 長谷川を応援する立場の者からすると、フラストレーションの溜まる展開が続く。

 最終ラウンド、長谷川のパンチがカウンターでヒットしてもガルシアの前進が止まらない。ボディを打たれ続けた長谷川は足の踏ん張りが効かなくなって来ているのか、それともガルシアの精神力がここへ来て最高潮に達しているのか?
 それならと、長谷川はディフェンスに徹して時間を稼ぐ。
 そして最後の十数秒は、両者共に左右の連打を打ちまくるという怒涛の展開。クリーンヒットは互に少なかったが、最後の最後にあれだけの無酸素運動を成し遂げる辺り、超人技を見る思いがした。

 判定の結果、大差の3-0で長谷川が王座を防衛。
 しかし、長谷川には大きな課題の残る試合となった。今回、ガルシアがやり通した「長谷川対策」の対策を長谷川が体現しない限り、後半失速して逆転を許す危険性は常にあると言えるだろう。
 もちろん、長谷川が漫然と次の防衛戦を迎えるとは思えない。苦手な戦法を克服し、より強くなった姿を披露してくれることを期待している。
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震電

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 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。