2017-08

WBC世界ライトフライ級暫定タイトルマッチ ワンディ・シンワンチャー VS 嘉陽宗嗣

WBC世界ライトフライ級暫定タイトルマッチ
          ワンディ・シンワンチャー VS 嘉陽宗嗣


 この試合、地上波での放送はあったのだろうか。スカパーのフジテレビ721では生放送されており、それを録画したものを私は観た。
 私のボクシング観戦はWOWOW中心であり、標準である。WOWOWで放送される試合は、4大統括団体の世界タイトル戦またはその王者クラスの選手同士の試合がメインで、それ以外はその団体の地域タイトルのかかった試合というパターンがほとんどである。
 たまに私が後楽園ホールで生観戦する日本国内のタイトル戦や東洋のタイトル戦は、当然と言えば当然なのだが、WOWOWで観る世界戦と比較すると明らかに内容的に見劣りする。だから、私はそういった試合には関心がない。私にとって日本国内のタイトル戦や東洋のタイトル戦は、世界戦やリナレスの試合の前座という以上の意味を持たない。

 日本人選手の試合を観る機会は、地上波で放送される世界戦のみ。しかも、それが深夜枠で放送された場合は見逃すことも多い。今年に入ってから後楽園ホールに脚を運ぶようになった私だが、日本人選手の試合に対する関心は、一般人と大差ない。
 TV番組で、具志堅会長が誰かに「亀田興毅と同じクラスに、強い日本人選手はいるんですか」と問われ、「ウチにいいのがいるんですよ」と応えていたのを見たことはあった。しかし、嘉陽宗嗣という名前は、この試合を観るまで知らなかった。当然、彼の試合を観るのも初めてであり、OPBFの前チャンピオンでWBA8位・WBC9位にランキングされているという肩書きを除けば、彼がどんなボクサーなのかという予備知識は一切ない。
 そういう前提で、この試合を観た。

 試合開始前、ワンディが計量時に1.2kgのウェイトオーバーで王座を剥奪されており、当日計量では嘉陽より1.5kg重かったことが伝えられる。計量時に1.2kgもオーバーしていて、当日の体重差が1.5kgしかないというのは、ちょっと不自然な数字である。1.5kgという数字は、確かに軽量級における1階級差に相当するが、計量時に1.3kgの差があったボクサー同士の当日の体重差としては小さ過ぎると思えるのだ。後日、ネットで検索したところ、ワンディは「体調が悪いので、体重を増やさないようにした(増やせなかった)」という記事を見かけた。

 リングに上がった二人のボクサーを見比べると、1.5kgという当日の体重差以前に、骨格の太さが1階級違うという感じがした。もちろん、ワンディが上という意味でだ。

 1ラウンド、嘉陽のワンツーが浅くヒットするものの、スピードが感じられない。ボディへの4連打もガードに阻まれなかったのは1発のみで、打ち終わりをワンディに狙われる。ポイントを取ったのは嘉陽だが、パワーで明らかに劣っている嘉陽が、スピードでワンディを上回れないことが気になるラウンドとなった。

 2ラウンド開始早々、ワンディが相打ちを覚悟しているタイミングでいきなりの右を振るう。まるで、嘉陽のパンチを全く恐れていないようだ。その後に嘉陽がワンツーを二度繰り出すが、ワンディは受け流すブロッキングでこれを全て捌く。パンチがある上に、ガードも丁寧だ。
 嘉陽もローブロー気味のボディブローを連打したり、肘を使って相手をプッシュしたり、臆することなく向かっていく。
嘉陽の右が軽くカウンターでヒットするが、顎を引いているワンディには全くと言って良いほど効果がない。このラウンドも嘉陽が取ったが、ワンディも嘉陽のパンチのリズムを掴んできている。

 3ラウンドを1分経過しようとしたところで、ワンディのいきなりの右フックが嘉陽の左側頭部を襲う。完全にオープンパンチであったが、それでも重さが伝わってくる。もしナックルが返っていたらと思うと、ゾッとするようなパンチだ。
 その後も、軽くではあるが何度もワンディの右がクリーンヒットする。ワンディも、ちゃんとパンチの強弱を使い分けている。このラウンドは、明らかにワンディのラウンドだ。

 4ラウンド開始30秒、ワンディのノーモーションのいきなりの右ストレートが嘉陽の額を直撃、嘉陽の顔が大きく上を向く。ストレートパンチが額に当たっているのに、まるで顎を撥ね上げられたかのような印象だ。
 ワンディは頭ばかり狙っているかと思えば、嘉陽のボディへ連打をヒットさせる。この辺りは2階級制覇は伊達じゃないと思わせる。
 前のラウンドから減ってきていた嘉陽の手数が、このラウンドでは明らかに少なくなる。パンチのスピードも目に見えて遅くなった。迷いながらパンチを打っているためか、それともボディが効いているのか? ポイントは、10-9でワンディ。

 5ラウンドは嘉陽が足を使ってワンディの周りを回る展開が多かった。その意味では主導権は嘉陽にあったかもしれないが、有効打の数ではワンディが上。ラウンド終了間際、ワンディが放った右フック(ボディ)→左フック(ボディ)→左フック(顔面)というコンビネーションは、左のダブルは空振りに終わったものの、鮮やかな攻撃だった。ポイントは、10-9でワンディ。

 6ラウンドが始まるとき、それまでロープ越しに嘉陽のトランクスを引っ張って楽にしてあげているだけだった具志堅会長が、フックの身振りを交えてアドバイスを飛ばす。セコンドも、試合の流れが相手に傾いていることを感じているのだろう。
 しかし、試合は嘉陽が足を使うと言うよりも、相手のプレッシャーを受けて退がる展開になる。嘉陽のパンチはほとんどがワンディのブロッキングに阻まれ、逆にワンディの上下に打ち分けるパンチが嘉陽に決まる。特に、ロングレンジでワンディの右ストレートが伸びて嘉陽の顔面を捕らえる場面は、距離を取っている嘉陽が劣勢に立たされている印象を強くする。
 このラウンドも、ワンディが取った。

 7ラウンド開始30秒、互にボディの打ち合いとなったと思いきや、ワンディが放った左フック(ボディ)→左フック(顔面)という左のダブルが、衝撃的なダウンシーンを生んだ。
 左のダブルではあったが、嘉陽の右顎に入った左フックはインパクトの瞬間にナックルが捻り込むように返されており、掌が完全にワンディ自身の方を向いていた。打ち始めはフックだったが、顎を捉えた瞬間からは完全にアッパーのフォームになっていたのだ。しかも、偶然ではあるが、嘉陽の左フックに対するカウンターになっていた。
 薙ぎ倒されるようにリングに倒れこんだ嘉陽が、カウントアウト寸前のタイミングで立ち上がったとき、打たれた彼の右顎は既に腫れ上がっていた。
 試合再開後のワンディのラッシュは、試合がラスベガスで行われていたのなら、明らかにTKOが宣せられる流れを含んでいた。しかし、日本でこの試合を裁いていたメキシコ人レフェリーは、その流れが訪れても止めに入らなかった。
 嘉陽は明らかに効いているのだが前に出続け、しかもクリンチすることなくパンチを繰り出す。果たして、嘉陽は意識がハッキリしている上で敢えてクリンチをしないで打ち合うという戦法を選択しているのか、それとも朦朧とした意識の中で手を出し続けているのか?
 打ち疲れの出たワンディは、この嘉陽の驚異的な粘りに根負けするような形でラウンド終了のゴングを聞くことになった。しかし、当然ながらポイントは10-8でワンディである。

 無残に変形した顔でコーナーに戻る嘉陽の姿を見たとき、私はあるいは8ラウンド目はないのではないかと思った。
 しかし、試合は続行。しかも、前のラウンドで強烈なダウンを喫している嘉陽が、積極的に攻め立てて試合の主導権を掴む。ワンディが打ち疲れからこのラウンドを流しているということもあるが、嘉陽のこの反撃振りは尋常ではない。心身ともに、驚異的な回復力である。ポイントは10-9で嘉陽。

 9ラウンド目も、嘉陽の攻勢が続く。嘉陽が自分の距離で、自分のペースでボクシングをしている。右に左にサークリングしたり、打っては退がるという動きで自分の位置を変え続け、ワンディに攻撃する機会を与えない。
 ワンディは7ラウンドの打ち疲れから、まだ回復しないのか? 調整ミスによるスタミナ不足は、これ程までに深刻なのか?
 この調子なら、あるいは嘉陽の逆転勝ちの可能性もある。少なくとも、7ラウンドのダウンは、8、9の2ラウンドで取り返した。

 しかし10ラウンドに入ると、前の2ラウンドで体力温存を図っていたワンディが“反撃”を始める。
 右、左のストレートを単発でクリーンヒットさせた後、左フック(ボディ)→右ストレート(顔面)→左フック(顔面)というコンビネーションで攻め立てると、嘉陽は腰を落としかける。
 嘉陽の動きが悪くなり、8、9ラウンドのような出入りが出来なくなる。ポジション取りで優位に立てなくなった嘉陽に、ワンディが的確にクリーンヒットを入れていく。
 嘉陽は左目の下をカット、口の中にも血が溢れている様子が窺える。顔の腫れ、特に右顎の腫れは見る見る酷くなっていく。口の中の出血と腫れ方からして、顎の骨が折れているのではないか?
 このラウンドは、明らかにワンディの10-9。

 11ラウンドは、互にクリーンヒットの少ないラウンドとなった。手数は嘉陽の方が多いのだが、空振りが多く、コネクトしたパンチもほとんど急所にヒットしていない。手数は少ないが、その中で確実にクリーンヒットを当てているワンディへポイントを割り振るべきだろう。

 最終ラウンド、嘉陽のワンツーは軽く浅くヒットするのだが、ワンディもブロッキングしつつ急所を外して受けている。だから、嘉陽のワンツーが突破口にならない。
 ポイントで明らかに負けているとき、相手を倒せるパンチを持っていないボクサーは、一体どうしたら良いのか。一発逆転を狙うとしたら、カウンターしかない。しかし、相手もそれが分かっていて、ワンツーで攻め込まれても、無理に打ち返そうとしなかったら…。
 このラウンドのワンディは、まさにそれだった。自分からは攻めるし、五分五分の状態なら打ち合う。しかし、相手の攻めの形に入ったときは、防御に徹して打ち合わない。ワンツーだけで相手の攻撃を終わらせて、そこで流れをリセットしてしまう。

 嘉陽は、頑張ったと思う。一度は終わったかと思った試合を最後まで戦い抜き、最終ラウンドでも前王者を攻め立てた。
 しかし、12ラウンドを通しての私の採点は、115-112でワンディの勝利。
 ジャッジの採点も、114-113が一人、116-111が二人のユナニマス・ディシジョンでワンディの勝利を支持した。

 ワンディはフライ級へ上がり、嘉陽はLフライ級に留まることになるだろう。今後、両者が同じ階級に属する期間は、ほとんど訪れないような気がする。
 果たしてこの試合は、1階級違うボクサー同士を戦わせたミス・マッチだったのだろうか。
 それとも、例え軽量級であってもパンチの決定力が試合を決めるという、現代ボクシングの典型的な試合だったのだろうか。

 試合後の報道によると、敗れた嘉陽は大きくランキングを落とさずに済む可能性が高いらしい。元チャンピオンが大きくウェイトオーバーしていたことと、嘉陽がダウン後もアグレッシブに戦って判定に持ち込んだことが評価されるようだ。
 顎も打撲のみで、骨折はしていなかったとのこと。
 嘉陽の再起に期待している。
 川嶋に勝ってSフライ級の暫定王者となったミハレスのように、パンチ力がなくても「手数」と「正確さ」でチャンピオンになれるボクサーは存在するのだから。
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震電

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 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。