2017-08

なぜ日本で「アポロ捏造説」がTV放送されたのか

なぜ日本で「アポロ捏造説」がTV放送されたのか

               ~愚か者は陰謀説を好む~


 何年か前、「アポロ計画による有人月面着陸は嘘だった」をテーマにした話がテレビ朝日で大々的に取り上げられたことがあった。その番組は、お笑いタレントを起用した所詮バラエティ番組であり、番組内で挙げられた「有人月面着陸の疑わしい点」は専門家に聞けば即解決する(素人でも分かるものもあった)にもかかわらず、それを避けることで話を盛り上げるという幼稚な内容であった。
 ところが、この番組の「アポロ捏造説」を本気で信じてしまった人もいたようだ。当時の私は、
・大衆は基本的に「捏造説」を好み、受け入れるものなのだろうか?
・今後も、TV番組のネタとして、様々な「捏造説」が垂れ流されるのだろうか?
と思った。

 「捏造説」は大抵の場合、「陰謀説」とセットになっており、確かに与太話としては膨らませやすい。これからは、「陰謀説」モノがバラエティ番組のトレンドになるのか? そう思ったが、実際には「アポロ捏造説」の1発ネタで終わってしまい、それに続く展開は無かったようだ。
 暫くして、「ケネディ大統領暗殺事件」を陰謀説で再検証するといった番組が単発で放送されたが、「アポロ捏造説」との繋がりはなかったと思う。

 ここで気付くのは、「陰謀説」モノは全て海外から持ってきた輸入品、あるいはパクリであるということだ。「アポロ捏造説」よりも遥か以前に放送された『第3の選択』というTV番組も、そうだった。
 なぜ日本のTV局(特に「アポロ捏造説」を放送したテレビ朝日)は、日本オリジナルの「捏造説」や「陰謀説」を作らないのだろうか?
 ネタなら、ある。例えば…


【1】「日本でニュートリノを検出したというのは嘘だった!」という捏造説

 「人類が月に降り立った事実」と「人類がニュートリノを検出した事実」は、大衆によって直接検証されていないという点において共通している。
 「飛行機が空を飛んでいる事実」とは異なり、「人類が月に降り立った事実」も「人類がニュートリノを検出した事実」も、大衆はそれが本当に事実かどうか、自分自身の経験として確認していない。ましてや、ニュートリノそのものは目には見えないものであり、ニュートリノを使って物体を動かしたり通信を行ったりする実験も行われていない。
 「アポロ計画による有人月面着陸は捏造だった!」という流れから、「日本でニュートリノを検出したというのも捏造だった!」という流れに持っていくTV番組が、日本でゴールデンタイム枠に放送することを予告宣伝すれば、番組はかなりの視聴率を得ることが出来るだろう。なぜテレビ朝日はそれを実行しないのか?


【2】「恐竜は存在しなかった!」という捏造説

 「恐竜の化石は捏造されたものであり、恐竜が存在していたという説は産学共謀の巨大な嘘である」という捏造説は、恐竜発見の黎明期はともかく、長らく話題になっていないと思われる。
 むしろ「ネス湖の恐竜ネッシー」のように、存在しなかったどころか「恐竜は今でも存在する」という話題の方がはるかに根強く、一般的である。
 生きている恐竜の映像を観た人は誰一人としていないのに、大衆は「現在の動物とはかけ離れた恐竜が、数千万年前という途方もない過去に存在したという事実」を信じている。その一方で、1969年に「人類が月に降り立ったことを撮影した映像」を世界中の人が実際に見ているにもかかわらず、今になってそれを疑う話がTVで取り上げられている。
 この差はどこから生まれているのか?


【3】「戦艦大和は建造されなかった!」という捏造説

 「人類は月に降り立っていない」と共通点を列挙してみる。
(1)何十年前に実現していたことを、今になって疑うというパターン
(2)大和は海底、月着陸船は月面にあって、現物の存在事実および仕様の確認が困難。
(3)大和は日本一国、アポロはアメリカ一国で、国家指導の元で建造された大型プロジェクトである。
(4)巨大戦艦、月着陸船というハードウェアは現在建造されていない。
 
 「昔、戦艦大和が本当に建造されていたのなら、現在の自衛隊やアメリカ軍が戦艦大和のような巨大戦艦を多数建造しているはずだ。しかし、現在の戦艦大和のような巨大戦艦は全く建造されていない。これは、大和のような巨大戦艦を建造することが今なお技術的に困難であることの証明である。
 大砲の弾は、ミサイルのような電波誘導が全く効かない。そんなものを航行しながら波で揺れる船の上から発射し、風が吹く洋上を隔て、何十km先の動く標的に命中させることは、現代のコンピュータ制御を使っても困難なのだ。よって、50年以上前の日本の技術で戦艦大和を建造することなど不可能だった」
 これを論破するのは容易であるが、「人類は月に降り立っていない」という捏造説の根拠を論破することも同じくらいに容易である。
 「アポロ捏造説」と「戦艦大和捏造説」をセットにした番組をテレビ朝日がゴールデンタイム枠に放送した場合、視聴者は「アポロ捏造説」と同じくらい「戦艦大和捏造説」を信じるのだろうか?


【4】「日本が真珠湾を攻撃したというのは米国の捏造だった!(真珠湾攻撃捏造説)」
【5】「広島・長崎に投下された爆弾は実は原爆ではなかった!(原爆投下捏造説)」
【6】「実は、日本は第二次大戦で負けていなかった!(日本敗戦捏造説)」
【7】「1964年のオリンピックは東京では行なわれていなかった!(東京オリンピック捏造説)」

 【4】~【7】に関しては、説明を省略。
 【4】の「真珠湾攻撃捏造説」は、「アポロ捏造説」のノリでテレビ朝日がゴールデンタイム枠で放送すれば、信じる視聴者は結構いそうで怖い。(と言うより、最近の若い人は「真珠湾攻撃」自体を知らないかも)
 ちなみに【6】の「日本敗戦捏造説」は、実際に信じている人々がかつて存在していたらしい。(これに関する書籍を古本屋で入手したので、近いうちに読む予定)

 【1】から【7】まで並べてみると、
(ア)関係者から訴えられる危険性がある点
(イ)TV番組として商売的に成立する=スポンサーがつくかという点
で問題があるものがほとんどである。

 最も実現性があるのは【2】の「恐竜捏造説」だろうか。しかし、「恐竜」はTV局にとってはコンテンツとなりうるキャラクターであるので、そういうキャラクターに対してネガティヴキャンペーンを張るような番組を作ることには二の足を踏むだろう。また、「恐竜捏造説」をテーマにした番組にスポンサーがつくかどうかという点でも疑問が残る。
 しかし、裏を返せば「アポロ捏造説」に対しては、TV局にとってアポロ計画がまっとうな方法ではコンテンツと成り得ない(一時的ではあれ)と判断されたということだし、「アポロ捏造説」をテーマにした番組にスポンサーがついたということも事実なのだ。(一体どこの馬鹿がスポンサーになったのだろう?)

 日本のTV局が流す「陰謀説」が専ら海外ネタのパクリである理由、テレビ朝日が「アポロ捏造説」の放送に踏み切った最大のポイントは「既に海外で放送されており、その際に裁判沙汰にならなかった」という事実にあるのだろう。
 テレビ朝日のプロデューサーは、「アメリカで放送されたものと同程度のデタラメ番組を日本で放送しても、NASAは訴えてこない」とタカを括ってパクリ番組を放送したというわけだ。
 だから、テレビ朝日が

【8】「日本の人工衛星打ち上げ成功は捏造だった!(日本の宇宙開発捏造説)」

というネタで番組を放送することはない。例え高視聴率が期待できても、訴えられるのが怖くて出来ないのである。(『カプリコン1』のように、完全に「この作品はフィクションです」というスタイルだったら、可能性はゼロではないが)

 愚か者は、何か疑問を感じると、ろくに調べもしないで「陰謀説」を持ち出す。
 例えば、月面に立てられた星条旗が風になびいているように見える写真を見ると、ろくに調べもせずに「アポロ捏造説」→「NASAの陰謀説」を唱えるという具合だ。
 「この世に陰謀など存在しない」などと言うつもりはないが、手持ちの知識で説明のつかない事柄に出くわすと、短絡的に陰謀説を持ち出すのは思考停止以外の何物でもない。

 愚か者は、何故ろくに調べもしないで「陰謀説」を持ち出すのか?
 それは、調べずに思考を途中停止させることで「有人月面着陸はNASAの捏造だ。巨大な陰謀によって、人々は騙されている」という陰謀説を唱えることが簡単であり、その簡単なことで「この陰謀に気付いた私は賢い」という気分になれるからだろう。
 努力しないで満足感を得る。まさに愚か者のやり方である。

 陰謀説と呼ぶにはスケールが小さいが、「亀田VSランダエタの再戦は、あらかじめ日本のTV局によって仕組まれていた」とか「韓国のジャッジは買収されていた」とか平気でブログに書く人を見ると、「愚か者は陰謀説を好む」という思いを強くする。
 彼らは、無知から来る思考停止を「自分は物事の裏まで見通した」と錯覚することで、己の「発言意欲」を掻き立て、その愚かな姿を自ら他人に晒しているのだ。

 ボクシングファンの間では、韓国のジャッジが「手数は少なくても前に出るファイター」を支持する傾向が極端に強いことなど常識である。
 認定団体は「タイトルマッチにおける直接再戦の禁止」を建前にしてはいるものの、きわどい判定やレフェリングで勝敗が決した場合、タイトルマッチであっても直接再戦が行なわれることは決して珍しくない。
 そして、各認定団体のランキングにおいて、その団体の本部のある国の選手が優遇されているのも、ボクシングファンには周知の事実である(そもそも、WBAが分裂したのはその辺が原因なのだ)。
 また、王座決定戦でタイトルを得たチャンピオンは、原則として90日以内に指名試合(防衛戦)を行なうことが義務付けられている。
 これらのことを併せて考えれば、亀田VSランダエタの再戦が決定したことは、別に不思議なことではない。

「真実は、愚か者しか傷つけない」
 カール・ゴッチの言葉である。
 事実を調べて積み重ね、それを元にして考えるという当り前の努力をしない者は、いつまでたっても愚か者のままで、自らが真実によって傷つけられていることに気付くことさえ出来ないだろう。
 そしてそんな愚か者こそ、テレビ朝日のようなTV放送局にとっては、カモとなる視聴者なのだ。
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コメント

カタルシスを得ることの危険

相変わらずするどい視点、感服です。人は分からないものを分からないという勇気をなかなか持てないんですね。陰謀、捏造の一番厄介なのは90%の真実に10%の嘘を混ぜるだけで、いかにも、な物語ができてしまうことです。
何より、私が韓国人ジャッジ買収説の可能性に触れた本人ですから。。。知識のなさと、カタルシスを得ようとした自分に反省。

「洗脳されること」にも快感が伴う?

 私も学生時代に『第3の選択』を見て、部分的に信じかけたことがありますから、自戒を込めて書きました。あの時は、同級生の指摘で「ああ、そう言われれば変だ、ここもおかしい」と、連鎖的に気付く事が出来ました。
 「こうあって欲しい」という自分の願望が、一時的にでも判断を誤らせるバイアスになることもあります。ちょっと話はズレますが、「洗脳」はする方はもちろん、される方も快感を得ているのかも知れません。自己暗示ならぬ自己洗脳…
 物事を見極めるための武器は「事実」、もう一つは○田×男さんの仰るとおり「勇気」でしょう。

どうしてでかねぇ。

どうしてバラエティ番組でアポロ捏造説を取り上げただけで、ここまで貶す事ができるのか不思議です。
お笑いタレントがこうした番組で司会をすると信憑性がなくなるのだろうか?
そこにだけ注目して、捏造説の内容のみを見ればいいのでは?
アポロで決定的におかしいのは、やはり旗揚げシーンでしょうね。
代表的なものはアポロ17号。
物理学的にいえば、あのような振り子運動はできない。
次に物体が月面の重力定数では考えられない速さで落下している。
もうここまで見れば、月面着陸は無かったという主張もうなずけるというものだ。
二つとも高校レベルの学力があれば月面ではない傍証と認識できるだろう。
それでも月面着陸したといえるのは、自分が真実を見ているつもりなんだろうけど、実は、「自称」専門家に見事に洗脳されているからだろう。

ちょっと注意してみるか、

 ネットで調べれば分かることなのですが…。
 最後の辺りでは、バラエティ番組でも、ちゃんと解説していましたよ。

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 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。