2017-08

WBC世界ミニマム級タイトルマッチ イーグル京和 VS ロデル・マヨール

ダイナミックグローブ第378回
  WBC世界ミニマム級タイトルマッチ
     イーグル京和 VS ロデル・マヨール

  2006年の会場で観た試合:3回目
  観戦日:2006年5月6日(土)

 WOWOWで、マヨールがイーグルへの挑戦者決定戦に勝利した試合を観たとき、王座交替の可能性が高いと思った。マヨールがミニマム級とは思えない強打を持っているうえ、カウンターを決める能力を有していることが分かったからだ。
 イーグルは打たれ弱くは無いが、身体はどちらかと言えば硬い方で、決してタフには見えない。しかも、打たれるとカッとなって打ち返し、時折カウンターを貰うという悪いクセがある。マヨールのパンチをカウンターで貰ったら、その1発でイーグルはリングに沈むのではないか。

 一方、ハードパンチャーは打たれ脆いという側面も持っている。あのパッキャオも、格下相手との試合でカウンターを喰ってダウンしたことがある。マヨールもあの強打にまともにカウンターを合わせられたら、立っていることは出来まい。
 また、あそこまで強振すれば、スタミナの消費も激しい。イーグルに捌かれ続ければ、後半ガクンと動きが落ちることも予想される。

 いずれが勝つにせよ、この試合はKO決着になるのではないか。
 そんな予想をし、良席を確保するため、わざわざ東京のチケピまで脚を運んでチケットを買った。
 そして5月6日、私は3万円払って観る価値のある、熾烈な試合の目撃者となった。
 試合は判定による決着であった。しかしそれは、決してKO決着に劣るものではなかったと断言できる。

 試合は、大方の予想に反して火花が散るような打ち合いで始まった。
 瞬間的に、私は事前の予想に反し、イーグルが勝つような気がした。ミゲール・コットが強打者ケルソン・ピントを下して戴冠した試合のイメージが浮かんだのだ。強打者を相手にしたときは、初回から自分が打って出る。相手を捌こうとして受けに回れば、相手を調子付かせるにことになるという判断がそこにはある。
 もちろん勇気が要るし、リスクも伴う選択だ。しかし相手にペースを取らせないことは、相手の強打を封じることにも繋がる。
 1ラウンド、両者共に被弾していたが、マヨールのパンチには力みがあった。アクセルを踏み込むと同時に、ブレーキまで踏んでしまっている感じだ。空振りも目立った。
 初回は防御で上回り、ラウンド中盤でコンビネーションをまとめて当てたチャンピオンがポイントを取ったように見えた。

 しかし、このチャンピオン優性の流れは長くは続かなかった。
 2ラウンドにマヨールのシャープな左フックがイーグルの右顔面を直撃。それからは、イーグルの顔が見えるたびに、右眼の腫れが酷くなっていった。
 後退するイーグルに対し、マヨールは上下にパンチを打ち分ける。
 私の見ている目の前で、チャンピオンが見る見るうちにボロボロになっていく。
 初回に感じた、イーグル勝利の予感はすっかり吹き飛んでしまった。
 ラウンド終盤、バッティングをアピールするイーグルに、マヨールは構わずパンチを打ち込んでいく。私の脳裏に、今度は「パッキャオに負けたときのバレラの姿」が浮かぶ。

 やはり攻撃力では挑戦者が1段上。
 危険な1発を貰わなければ、防御力に勝るチャンピオンが有利に試合を進めることが出来たかもしれないが、その1発を貰ってしまった。
 最初に予想した、イーグルのKO負けという結果が早くも現実味を帯びてきた。
 3ラウンドは、中盤盛り返したかに見えたイーグルが、終了間際に強烈な左フックを打ち込まれてしまった。私の目には、この1発で明らかにポイントを失ったように映った。

 4ラウンドも、開始早々に左フックをカウンターで喰らってイーグルがフラつく。
 明らかに効いている。
 ロープに詰められ、ボディに連打を貰ったかと思えば、下から左ストレートを顔面に突き上げられてアゴが上がってしまう。

 イーグルの右目は、早くも塞がりかけてきている。
 KO負け覚悟で、勝負を仕掛けるしかないのではないか? そんな気さえしてくる。

 5ラウンド、イーグルは腫れていない方の眼である左眼の上をバッティングによってカット。これで両目ともに視界が悪くなった。距離感はボクサーの生命線であるが、距離感どころか「見える/見えない」というレベルの話になってきた。
 このカットの際、レフリーが勘違いから試合終了の合図を出しそうになったが、もしこのラウンドで負傷判定となったら、どう見てもイーグルの負けになる。
 イーグルにとっては、まさに前門の虎(マヨール)、後門の狼(出血)。
 この時点で、私はイーグルの王座防衛をほとんど諦めていた。

 しかし、7ラウンドに入ると、マヨールが倒し急いでいるのか、攻撃が雑になってきた。イーグルは、その隙を付いてワンツーをクリーンヒットさせる。
 お互にギリギリの精神状態で闘っているためか、偶然のバッティングがあってもどちらもグローブを合わせようとしない。
 
 8ラウンドは、マヨールは前に出るものの、クリーンヒットを奪えずクリンチに至るパターンが多くなってきた。逆にイーグルは、マヨールのボディにパンチを集める。
 このラウンドは、終了時にコーナーに戻るとき、両者共にガッツポーズをしなかった。

 9ラウンドになると、後退するマヨールをイーグルが追う展開となった。
 マヨールの手数が減ったため、イーグルが前に出られるようになったのだ。単調になったマヨールのパンチを避けた直後、イーグルが攻め返す。その手数がマヨールを上回っている。コンビネーションがクリーンヒットする場面もあり、ここへ来てイーグルが試合の流れを取り戻してきた。
 このラウンド終了時、イーグルだけがガッツポーズを作った。
 いつの間にか、イーグルの左眼の上からの流血は止まっていた。

 10ラウンド目、先に軽くではあるが何発かクリーンヒットを入れたのはマヨールの方だった。しかしイーグルは動ぜず、より強いパンチをクリーンヒットさせる。
 マヨールも左フックをイーグルの顔面に当てるが、ナックルの返りが甘い上に、タイミングを読まれているので効かない。反撃に転じたイーグルにボディを連打されると、マヨールの背中が丸くなった。こちらは明らかに効いている。

 マヨールは11ラウンドにもボディを打たれると、レフリーに後頭部のホールドをアピールする。2ラウンド終盤に、イーグルがレフリーにバッティングをアピールしていたのと、全く逆の状況である。これは弱気になっている証拠だ。

 そしてこの試合の最高潮は、最終ラウンドに発生した。
 左ジャブを当てたイーグルが、二呼吸ほどおいてからいきなりの右ストレートを放つと、これがマヨールの顔面を打ち抜いた。反撃を避けるためにサッと後退したイーグルの目の前で、マヨールがヨロヨロと危なげなステップを踏む。
 それをイーグルが見逃すはずもなかった。クリンチに来るマヨールを引き剥がすようにボディにパンチを打ち続け、本当に引き剥がしてしまう。何発かパンチを入れた後に再度クリンチされ、今度はレフリーにブレイクされるが、棒立ちになったマヨールにすぐさま襲いかかる。
 顔面からボディへのコンビネーションがヒットすると、マヨールはロープ際に倒れ込んだ。
 ダウンだ。
 その瞬間、後楽園ホールはただ一種類の歓声で完全に満たされた。
 私の耳の内側も外側も、全く同じ歓声が鳴り響いていた。試合の空間と自分の身体が一体化したような感覚だった。この瞬間を、私は一生忘れないだろう。

 判定は、115-112【ハセット(米国)】、114-113【ローデン(メキシコ)】、117-110【バンホイ(米国)】のユナニマス・デシジョンでイーグルの勝利。私も、115-113でイーグルを支持した。
 それにしても、きわどい勝利だった。11ラウンド終了時点では、マヨールを支持していたジャッジもいたのである(ちなみに私はドロー)。
イーグルvsマヨールのスコア
 
 試合の中盤以降は、両者ともに意外にクリーンヒットが少なく、膠着した展開だったと言えるかも知れない。しかし、高い技術に裏打ちされた膠着は、観る者を飽きさせない。ガードの甘い者同士の乱打戦などとは全く次元の異なる緊張感が、常に試合を支配していた。
 世界最高峰の技術力と体力、そして精神力。
 「これがボクシングだ」そう叫びたくなるような、素晴らしい試合だった。
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震電

震電

 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。