2017-10

私もジャッジだ(“お茶の間ジャッジ”だ)

私もジャッジだ(“お茶の間ジャッジ”だ)

    WBC世界Sフライ級タイトルマッチ
              徳山昌守 VS ホセ・ナバーロ
                      に向けて、採点基準を再確認する!


 私はボクシングファンだが、普段のTV観戦時は特に採点はしていない。
 しかし、徳山昌守 VS ホセ・ナバーロ のWBC世界Sフライ級タイトルマッチは、自分なりにキッチリ採点しようと思っている。何故なら、ナバーロが前回日本で試合を行ったとき、自分の印象とは大きく異なる採点結果が出ていたからである。

 ナバーロが前回日本で行った試合とは、2005年1月に行われたWBC世界Sフライ級タイトルマッチ。相手は当時チャンピオンだった川嶋勝重、ナバーロは今回同様挑戦者だった。この試合をTV観戦していた私は、判定結果がアナウンスされる直前まで、ナバーロの勝利を確信していた。どんなにホームタウン・デシジョンが作用したとしても、ナバーロの勝ちは動かないだろうと思った。しかし実際の判定結果は、2-1のスプリットながら川嶋の勝利となった。
 これは、絶対におかしい。そう憤ったものの、スコアを付けずに観戦していた私の判定は、単なる印象でしかない。スコアを付けていなかった私は、川嶋を支持したジャッジの採点のどの部分が「おかしい」のか、具体的に指摘することが出来なかった。

 ボクシングファン、特に地上波で放映される世界戦しか観戦しない“にわかボクシングファン”の中には、スコアも付けないくせにジャッジの採点を批判する人がいる。当然ながら、こういう批判には根拠がない。同レベルの2人の走者が別々に何回か走った100m走の合計タイムを、ストップウォッチも使わずに比較するようなものだ。「全体の印象」は、「独立した部分全ての算術合計」と、必ずしも一致しない。そしてボクシングの判定とは、「独立した部分全ての算術合計」に他ならないのだ。
 根拠もないのに批判するのは無責任である。例え小さな発言でも、発言には責任が伴う。大きな発言には大きな責任が伴うように、小さな発言には小さな発言が伴うのだ。ジャッジの採点を批判する者は、“お茶の間ジャッジ”としてスコアカードを記入する責任があるというのが、私の考えである。
 だから私は今回、自分なりにスコアカードを作った。
スコアカード

 スコアシートではなく、わざわざスコアカードにしたのにも、ちゃんと理由がある。
 ボクシングの採点は、ラウンドごとに完全に独立したものでなければならない。スコアシートに1ラウンドずつ書き足していく方法の“お茶の間採点”だと、以前のラウンドの採点がパッと目に入ってしまう。このことにより、「以前のラウンドを含めた今までの印象」が作用してしまい、「ラウンドごとに完全に独立した採点」を妨げる危険性がある。この危険性を排除するためには、やはりスコアカードにする必要があると思う。「ジャッジは、試合中に以前のラウンドを振り返ってはならない」のだ。

 また、“お茶の間ジャッジ”になるからには、当然ながら採点基準を理解していなければならない。
 徳山昌守 VS ホセ・ナバーロ は、WBCの世界戦である。WBCの採点基準に関しては、トム・カズマレック氏が著し、ジョー小泉氏が訳した良書『あなたもジャッジだ』があるので、これを読めば「知識としての」WBCの採点基準は、ボクシングファンなら誰でも大体頭に入る。
 ただ、残念なことにトム・カズマレック氏は「ガードの上にヒットしたパンチ(クリーンヒット以外も含めた、俗に言う“手数”)」に関しては、ごく僅かしか語っていない。よって、この点に関しては、ジョー小泉氏が記したあとがきを参考にする。ただし、採点項目の優先順位に関して、トム・カズマレック氏は「リング・ジェネラルシップ」を「防御」より上位に据えているので、この考えを採用する。
 個人的に肝に銘じておきたいポイントを列挙すると、以下のようになる。

【1】採点項目の優先順位は、「クリーンヒット」、「手数」、「リング・ジェネラルシップ」、「防御」の順である(「ク・テ・リン・ボウ」と覚える)。上位の項目で差があった場合は、下位の項目に関しては考慮しなくても良い。(これは厳密に言うとトム・カズマレック氏の記述と矛盾する部分があるが、こうしないと採点基準が不明確な部分が出てきてしまう。拡大解釈ということで納得するしかないと思う)

【2】クリーンヒットの有効度(質)は、第一に相手に表れたダメージで判断する。最大のダメージの表れ方は、ノックダウンである。
 相手に明確なダメージが表れない「パワーパンチ」のクリーンヒットよりも、相手に明確なダメージが表れた「一見手打ちの軽いパンチ」のクリーンヒットの方を、より高く評価する。
 第二に、急所にヒットした際の「正確さ(ヒットした位置、角度)」と「強さ」で有効度を判断する。

【3】「ガードの上(急所以外の部位)にヒットしたパンチ」であっても、受けた相手にダメージが表れた場合には、「有効な攻勢」として採点に反映させる(「クリーンヒット」に準ずるものとして、単なる「手数」よりも高く評価する)。それ以外の場合は、「手数」のうち一つとしてカウントするに留める。

【4】「クリーンヒット」の項目は、総合的には、クリーンヒットの「質」×「量」で評価する。

【5】空振りは、「手数」に含まない。ただし、「リング・ジェネラルシップ」の一部として評価の対象となる場合もある。「空振りのパンチの迫力」で相手に警戒心を抱かせることによって、試合を有利に進める場合もあるからである。

【6】最高の防御は「空振りさせること」である。ただし、【2】のリング・ジェネラルシップが認められた場合、採点の優先順位としてそちらの方が高くなる。

【7】「両選手に、それぞれダウンが1回ずつあったから、相殺して10-10」と、機械的に採点してはならない。ダウン以外の部分での差を採点することを忘れてはならない。

【8】「クリーンヒット」が互いに無いか同等で、「手数」にも差がなく、「リング・ジェネラルシップ」、「防御」ともに優劣が認められない場合は、10-10を付けても構わない。

【9】パンチによる出血や顔の腫れを、直接的に採点に反映させてはならない。パンチによる出血や顔の腫れは、リングドクターが試合の続行の是非を判断する際の材料にはなるが、ジャッジの採点項目には含まれていない。

【10】採点は、必ず「running score」方式で行うこと。(個人的には、実際に2色色鉛筆などを用いて行う)

 また、今のところ日本で行われる世界戦は、全米統一ルールではなく、WBCルール(WBAとWBCの統一ルール)が運用されている。全米統一ルールと違っている点もあるので注意が必要だ。

    《 WBA・WBC世界戦統一ルールのポイント 》

【1】3ノックダウンルールを採用する。
【2】偶然のバッティングで一方のみが出血した場合、無条件に(どちらに落ち度があったかは問わない)出血しなかった方から1点減点する。(故意の場合は、故意を有する方から2点減点)
【3】バッティングによる負傷で試合続行不可能となった場合、4ラウンドまでならドロー。5ラウンド以降の場合、それまでのラウンド(ラウンド途中で合続行不可能となった場合、そのラウンドも含める)の採点で勝敗を決める。
【4】ダウンがあった場合、最終ラウンドのみゴングで救われる。

 最後に、おまけ的に「ポイント差のイメージ図」を張っておこう。

ポイント差イメージ

 4ポイント差というのは僅差の部類のような気もするが、全ラウンドが10-9であった場合、実際には「8ラウンド対4ラウンド」のダブルスコアなのだ。
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コメント

度々失礼します

さっき、「なんとはなしに」書き込んでしまいましたが、この昨日の日記を拝見、その心構えを拝見、あいや、申し訳なかったなぁ…という事で再書き込みさせていただきます。ナバーロVS川嶋は確かに微妙でしたね、しかし、「印象お茶の間ジャッジ」でテレビの前で見ていた私は「僅差で川嶋が勝った」と、思いました。要するに、1っ発の重さをとるか、手数攻勢をとるか?…みたいな感じで、ナバーロは非常にコンスタントでしたが、川嶋の見せた「気迫の篭ったハードパンチ」がジャッジの『目』に印象を残したのでしょうか?しかし、前の書き込みに補足させてもらえば、11Rもナバーロかな…とも思いましたが、ここが難しくて、徳山の右の方が「明快」に当たるので、逆にナバーロの手数とわかりにくいボディー打ちをいかに採点に反映させるか?ってことになって、難しいんですね。徳山はスタミナは失っても致命的なパンチは受けないし、ピンチにも陥りませんでした。ナバーロもそうでした(最終12Rは除いて)。しかし、見栄えのいい徳山の右とその距離感、さらに巧妙なクリンチワークの前に、ナバーロは完全に敗れた感は残りました。…で、クリーンヒットは印象に残らないもののリングジェネラルシップ…って意味でナバーロにポイントを加えると、115-113となりますが、手数・空振り・強圧VS少手数・クリーンヒット・後退…となった場合、僕の感覚では後者に加点しちゃいますけど…。これは自分で採点しながらも、パーラVS坂田2で悔しい思いをしたものでした。長々とすみませんでした。大変いい採点哲学させていただきました。しかし、あのロレンソ・パーラの巧さと徳山の巧さはその距離感とクリンチワークを駆使する意味で相似性がありますね。好戦的なファイター好きな僕は複雑な部分も密かにあります。

いえいえ、とんでもありません

 再度コメントありがとうございます。今までボクシングの記事にコメントを貰ったことがなかったので、とても嬉しいです。
 頭は打たれているところが見えやすいし、後ろから見ても打たれた頭(頭髪)が動けばインパクトが伝わってくるので、ボディブローよりも採点に反映されやすいのは仕方がないところだと思います。私は7ラウンド目をナバーロに与えてしまっているのですが、ボディブローを当てられてクリンチに行ったりロープまで後退した徳山の動きを「ダメージの効果」だと見て過大評価してしまったようです。両者のクリーンヒットの1発ごとの有効度を同程度と見れば、その数で上回った徳山のラウンドですね。
 11ラウンドは、芯は外していますが徳山もけっこうパンチを貰っています。序盤に徳山が当てたパンチも軽かったので、パンチの有効度と手数は同じ(あるいは、この部分でもナバーロがやや上)。そして、離れて戦おうとしているボクサーがクリンチに逃れている以上、主導権支配はファイター仕様のナバーロにあると見るのが適当だと思います(クリンチはブロッキング同様の「防御」であるので、「主導権支配」として評価すべきではないと考える)。もちろんパンチの有効度が上なら、クリンチに逃げていても徳山のラウンドになるのですが。
 しかし、アウトボックスからクリンチと、長い距離をガード下げ気味で往復運動を続けても、決定的な一発を貰わなかった(と言うより、打たせるチャンスを与えなかった)徳山の距離感は大したものです。確かにパーラに通じるものがあります。アスロウム戦のときのパーラはアウトボクサーの鏡といった感じで、本当に見事でした。日本人選手相手にアレをやられたら、私も歯軋りすると思いますが。

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 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。