2017-10

ロレンソ・パーラ VS ブライム・アスロウム

WOWOW『Excite Mach』
                          2005年1月30日 20:00~ 放送分

ロレンソ・パーラ VS ブライム・アスロウム (WBA世界フライ級タイトルマッチ)


 仮にアスロウムが勝ったとしても、番狂わせとは思わなかっただろう。
 パーラに関しては、日本で行われたタイトルマッチを流して観た程度だが、「強い」というイメージがない。そして、『Excite Mach』で観てきたアスロウムに関しても、実は同様である。
 アスロウムは『ボクシング・マガジン』のインタビュー記事で「まずは防御を固め、攻めあぐねた相手がミスしたところを、逆に攻める」という旨のことを語っていた。この発言から、ボクシングのスタイルに対しても、両者は似たタイプなのではないかと思えた。

 パーラとアスロウムの試合は、互に手数の少ないディフェンシブな展開が続き、僅差のスプリット・デシジョンで勝敗が決まるような気がした。ホプキンス VS テイラー の第2戦ような地味な試合になるのではないか、と。
 それが、実際にはダウンを含む一方的な試合内容となった。試合で何が起こったのか、振り返ってみたい。

 パーラは27歳と意外に若く、KO率も65%と、この階級にしてはかなり高い。数字の上では、私の抱いていたイメージとは異なっている。
 一方のアスロウムは、26歳とパーラと一つしか違わない。KO率は37%、これはまぁ普通だろう。
 数字の上で、両者の体格差はほとんどない。試合開始のゴングが鳴り、実際にリングの上で対峙した両者を見比べても、その印象は変わらなかった。

 1ラウンド、アスロウムがいきなりサウスポースタイル。右利きのアスロウムがサウスポーで戦うことは今までもあったが、最初からというのは始めて見た。アスロウムが、インタビュー記事で「自分は、サウスポーの方がバランスが良くなるんだ」と語っていたことを思い出す。
 右利きがサウスポーで戦う場合、利き腕で放つ右ジャブは威力が大きいが、左ストレートはさほど強くなく、KOパンチにはなり難いというのが普通だ。一般的なワン・ツー(右・左)ではなく、右ジャブから右フック、あるいは逆ワン・ツー(左・右)を狙っているのだろうか。
 しかし、1ラウンドはアスロウムはほとんど手を出さず、パーラがガードの上とは言え好きなようにポンポン打ち続ける展開になった。

 2ラウンド、さすがにセコンドから言われたのか、アスロウムが前に出てパーラを追う動きで始まる。しかし、前に出した右足の運びがギクシャクしている。膝にバネがないのだ。追われているパーラの方が、明らかにフットワークが滑らかである。
 ロープを背にしたパーラだが、右回りにサークリングしてリング中央へ。それを追ってアスロウム間合いを詰めてくるところを、待ち構えていたかのように、パーラがいきなりの右を繰り出す。アスロウムも一瞬遅れて右を出したが、これで結果的にパーラの右がカウンターの形となった。
 アスロウムの下アゴをこするように当たったパーラの右拳は、そのままアスロウムの喉元を捉え、返しの左フックがテンプルのやや上を打ち抜く。アスロウムは、もんどりうつようにしてダウン。

 カウンターで連打を喰ったとはいえ、アスロウムの倒れ方がやけに派手だったのが気になってスローで確認したら、パーラは右拳を繰り出しながら左足でアスロウムの右足を踏んでいた。しかも、パーラは左フックをフォローすると同時に小さくステップバックをして、アスロウムの右足の上から自分の左足をどかしている。意図的にやったとしたら、とんでもない名人芸だ。

 このあと、パーラは連打で一気に攻め立てる。しかし、そのほとんどが頭部を狙った左右のフックなので、アスロウムのガードに阻まれてクリーンヒットしない。その連打の合間を縫ってアスロウム放った一発の右フックがカウンターでパーラの顔面を掠めたその瞬間、試合の流れが逆転するかと思われたが、これは当たりが浅かった。と言うより、アスロウムの腕が伸びていなかった、縮こまっていたと言うべきだろう(より正確には、ナックルが返っていなかった)。
 一度ラッシュした後、パーラは無理に倒しには行かない。アスロウムも守りを固めたままで、2ラウンド目終了のゴングが鳴った。

 3ラウンド、アスロウムは足を使うわけでもなく、クリンチに行くわけでもなく、ただパーラの正面に立ってガードの上を打たれ続ける。そのほとんどはブロックできているものの、時折交えるパーラのボディブローは、危険な角度を見せている。パーラが、アスロウムの両ブロックの更に奥、耳の辺りを狙った一発をクリーンヒットさせる場面もあった。

 4ラウンドから、アスロウムは前進を再開するが、後退しているパーラの方が手数が多い。そして、前進していたアスロウムが、いつの間にかガードの上からとは言えパーラの連打を受けて後退するという展開が繰り返される。
 5ラウンドはアスロウムが右フックを強振する場面もあったが、クリーンヒットの数ではパーラが上回る。
 6ラウンド目に入っても流れは変わらず、パーラが自分の距離、自分のリズムで試合を支配し続ける。

 本来、リーチもタイプも同じである両者は、戦う距離も同じ筈である。にもかかわらず、クリーンヒットは少ないものの、パンチをより強力に、より多く相手にコネクトさせているのは明らかにパーラの方なのだ。これは、パーラが距離は同じでも占位において勝っている、すなわちリング内で相手より有利な場所を確保し続けているからに他ならない。
 アスロウムはガードを固め、相手が連打の中でミスブローしても後に退がるだけ。それに対し、パーラは相手が右を強振するところをダッキングでかわし、相手の右側に回り込む。右を振ったアスロウムの右サイドは、パーラにとっては安全地帯、アスロウムにとっては死角である。パーラはそこを占位した瞬間、お返しとばかりに左フックを見舞う。
 このパーラの反撃が仮にクリーンヒットしなかったとしても、また仮に両者の手数が同じだったとしても、ジャッジに与える印象はパーラのほうが良いに決まっている。それが、リング・ジェネラルシップ(主導権支配)というものだ。

 7ラウンドは、アスロウムが初めて手数で上回ったラウンドとなった。ジャッジがアスロウムにポイントを与えてもおかしくはない。しかし、両者ともクリーンヒットはほとんどなく、ラウンド後半、ガードの上からより強いパンチを打ち込んでいたのはパーラの方だった。

 8ラウンド開始早々、パーラの放ったボディブローの連打のうち一発が、アスロウムのレバーを捉えた。真っ直ぐに後退したアスロウムは、このラウンド、ほとんど前に出られなくなる。
 9ラウンド、打たれたレバーを相手から遠ざけるためか、アスロウムがこの試合初めて本来のオーソドックスに構える。アスロウムは前に出て手数を出すが、フットワークがぎこちない。スルスルとサークリングを交えて後退するパーラを捉えることが出来ず、逆にガードの上から強い連打を受ける。
 1分以上を残したところで、アスロウムはサウスポースタイルに戻し、その後また短時間ではあるがオーソドックススタイルを取った。これは相手を惑わすというよりも、アスロウム自身が戸惑っているように見えた。
 アスロウムは積極的に手を出しているものの空振りが目立ち、文字通り空回りしているという印象だ。一方のパーラは、手数は少ないものの、クリーンヒットの数では上回っていた。

 10ラウンド、無意味とも思えるスイッチを繰り返すアスロウム。パーラは、そんな迷いを見せるアスロウムに対し、ベルトラインぎりぎりのボディブローを打ち込んだり、後退しながらのアッパーでアゴを撥ね上げたり、要所要所でクリーンヒットを決める。
 パーラはラウンド終盤ではヒットアンドアウェイの動きに切り替え、ゴングが鳴ってコーナーに戻る際には笑顔を見せて余裕をアピールした。

 11ラウンドに入ると、スタミナを充分に残しているパーラは足を使ってヒットアンドウェイを行う。アスロウムも懸命に追うが、空振りしたところを完全に後ろに回られるなど、翻弄されるという表現を使いたくなるような展開となる。
 パーラのジャブがガードの間を縫ってアスロウムの顔面を小突き、アスロウムが反撃の拳を振るったときには既にパーラは射程圏外に出ているというパターンが繰り返された。

 最終ラウンドが始まると、パーラは当然のように逃げ切り態勢に入る。自分よりも余力を残している相手が逃げに回った場合、それをロープなりコーナーなりに追い込むと言うのは不可能に近い。アスロウムも諦めずに追い続けたが、奇跡は起こらなかった。

 アスロウムの敗因は序盤の手数の少なさと、手数を増した中盤以降もずっとポジショニングで劣位に立ち続けたことだろう。もちろん、2ラウンド目のダウンが響いていたことは言うまでもない。
 また、アスロウムはパーラと同じタイプのボクサーであったため、経験の差が出てしまったとも言える。アスロウムがパーラの足を止めるためにボディを狙わなかったのは、明らかに失策であった。


 果たして、日本期待の新星・亀田興毅は、パーラに勝つことが出来るのだろうか?
 煽り映像程度しか見たことがないので予想もままならないが、亀田(興)は左のボディ・ストレートでアランブレッドをTKOに追い込んでいる実績がある。しかし、今回のようなにリングの中を自在にサークリングするパーラのボディを捉えるのは、困難であるように思える。
 亀田(興)自身、WOWOWのインタビューにおいて、何人かの対戦予想選手の中ではパーラを最もやっかいな相手と認識している様子を見せている。
 アスロウムの敗戦により、亀田(興)のWBAランキングは4位に上がった(2005年12月21日付けのもの)。パーラが引退でもしようものなら、王座決定戦に選ばれる可能性もある順位だ。

 個人的には、亀田(興)には好不調の波が大きいパーラよりも、「アスロウムは話にならへん。アイツは絶対弱いで」とコキ下ろしていた、そのアスロウムと対戦して欲しい。パーラに惨敗したことで大きく株を落とした観のあるアスロウムだが、そのルックスと金メダリストという経歴がもたらすスター性は健在だ。日本で亀田(興) VS アスロウムが実現したら、ノンタイトルでも会場に脚を運ぶつもりである。
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震電

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 写真撮影時40歳。
 いい歳して云々といった決まり文句は私には通用しない。たった一度の人生、他人に迷惑をかけない範囲で楽しみます。